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超マニアック顕微鏡的コピー考察

ジェフベックの演奏を顕微鏡で見るように細かく考察してみようという試みです。それによってジェフベックのあの独特のニュアンスやフレージングなど表現手法や方法論を見いだすことができるのではないかと思います。

ジェフベックの演奏は、フォレージングだけでなく独特のニュアンスがありますが、どうやって弾いているのか分からない場合も多々あります。
現代ではデジタル技術で再生速度を変えて聞けるので、今までなら聞き逃していたニュアンスの現場を聞き取ることができます。また海賊盤により、レコーディングのトラックを分けた音源やミックス違いなど、通常版では聞けない音が聞ける音源もあります。そういったものを聞くと、通常版では分からなかったサウンドの舞台裏が分かることもあります。

この考察ではそうやって速度を変えて、同じ音でもどの弦で弾いているのか、どのポジションで弾いている、どんな技術を使って弾いているのか(例えばハンマリングなのかスライドなのか、プリングオフなのかピッキングなのか等)まで細かく探求してみたいと思っています。それだけの探求をしても分からない事もあります。しかし、思っていたことと実は違っていたということもたくさんあって目からウロコです。

その他、よくあるようなフレーズだけど、よく弾かれるポジションや運指で弾いていないというところもあります。それによって、ニュアンスが変わっています。例えば、普通は5フレット付近で繋いで弾くけど、開放弦とプリングオフで弾いているとかです。中には、ポジションが確定できないものもあります。ですので完成度は100%ではありません。しかし、発見もたくさんあるので超マニアックな楽しみを共有できれば幸いです。

*似たようなコンテンツ「Jeff’s Boogie考察」


She’s A Woman

のっけからマニアックな曲です(笑)Blow By Blowの2曲目、レゲのリズムで演奏されるビートルズの曲です。ジェフベックの曲でもほとんど話題になることはないですが、トーキングモジュレーターも使われていたり、この曲の演奏は実に素晴らしいと思います。また、この曲の演奏はよく聞くと不思議なことがいっぱいあるんです。昔から言われていたのは、複数のテイクを切り貼りしているのではないかという事です。確かにそういう面がありそうです。

この曲は、Jan Hammer Groupとのライブでアレンジを変えて演奏されていたり、ワールドロックフェスティバルでの演奏が伝説になっていたり、ジェフベック自身もかなり気に入っていたのではないかと思います。

切り接ぎテイクについて

少なくとも通常版の03:33から03:55までは、別テイクが差し替えられています。これは4チャンネル盤やSACDを聞けば分かります。別のテイクと言うより元々これだったのだというテイクが聞けます。けっこうしょぼいです。なので、そこに別のもっと聴き応えのあるテイクを録って差し替えたのが通常版だという感じです。
しかし、細かくコピーしていくと、他にも運指やスイッチの操作を考えると無理のある箇所が何カ所かあります。音色も変わっているので、そこも別テイクになっているのではないかという気がします。
動画は、そういう切り接ぎしてあるであろうソロを1本で弾いているので音色の変化やフレーズの切り替わりなどに多少無理のある箇所があります。

音色

まず、どんなギターで弾いているのかという点ですが、ミックスで上手く音がまとめられていて、分かりにくいところがありますが、最後の方でビブラートにトレモロアームを使っているらしいところがあるのでストラトではないかと思います。
音色的に見ると、まずテレキャスターではないだろうと思います。それと途中でレスポールではないだろうという箇所もあります。そういう消去法で考えてもストラトになるのですが、レスポールやテレキャスターを思わせるような音もちらほらあるところが難しい。ミックスされた別テイクを違うギターで弾いているという事もあるかも知れません。特にテレやレスポールのセンターポジションの音に似た音色のところがあります。よく聞いていくと実にいろいろな音がしています。とはいえ、とりあえずストラトであろうということで考察を進めます。

音色は、いかにも真空管アンプ的なクリーン〜クランチ音で弾いている部分と逆にファズで歪ませたような潰れた歪み音の2種類があります。エフェクターで踏み換えていると言うよりは、トラックが違う(別テイク)なのではないかという気がします。また、ジェフベックにしては珍しくストラトのフロント&センターのポジションで弾いているような音がしています。個人的な見解なので、人によって聞こえ方は違うかも知れません。その辺もおもしろい所です。あくまで私の耳での話です。

詳細

●イントロ
フロント+センターのクランチ音ではないかと思います。通常版では聞き取りにくいですが、テーマフレーズの後にも4〜5弦でフォローフレーズを弾いています。

●Aメロテーマ
歪み音です。ボリューム操作ではなく別テイクではないかと思います。合間のフレーズはクリーンなので、これも別トラックではないかという気がします。でもエフェクターで切り替えているかも知れません。
なお同時に別トラックのトーキングモジュレーターも鳴っていますが、フレーズがまったく同じではなく微妙にずれているところがジェフベックらしいです。トーキングモジュレーターでは、ビートルズのShe’s A Womanの歌詞をトークしています。

●Bメロ
センターマイクのクランチではないでしょうか。一音ごとに微妙にビブラートをかけているのもジェフベックの個性かも知れません。

●2回目のAメロ(01:10)
ここの弾き方が実にジェフベックらしい運指です。1回目よりかなりクセのある弾き方をしています。

●2回目Bメロ(01:34)
ここも1回目よりは崩して弾かれています。頭で弾いているF音は間違えたのでしょうね(笑)2弦でF#を弾きたいのを間違えたか、3弦でEを弾こうとして指が滑ったのか・・・音質からすると3弦のような気がしますが・・・こういうミスがあってもOKテイクになっているところが面白いです。ジェフベックのアルバムはそういうのがあちこちにあります。途中でリアマイクに切り替えています。Cメロのセクションの前で細かくマイクが切り替わっている気がします。

●Cメロのセクション(02:00)
トーキングモジュレーターに隠されて聞こえづらいですが、ギターではフロントマイクで少し違う譜割りのフレーズを弾いています。このあたり、ちゃんとアレンジしたわけではなく気ままにバラバラに別のフレーズを弾いていますが、絡み合ってまとまって聞こえるのは不思議です。ジェフベックのスタジオアルバムはそういうのが多いです。ソロ部に入る前にオクターブ奏法のフレーズがあり、その流れでソロに移ります。

●ソロ部
ソロ部の運指はかなりあちこち奔放に飛びます。その辺がジェフベックらしいですし、つぎはぎもあるのではないかと思います。
セクションからの続きでオクターブ奏法。コロコロとしたクリーン音で続きます。その次のフレーズは、普通なら2弦5〜8フレットで弾きそうですが、そこで弾くとB音に無理があるので1〜3弦のローポジションではないかと思います。あらかじめアレンジしたフレーズでないと、この流れであえてB音を弾きにいかないのではないでしょうか。

その次のリズムを無視したようなジャズ的なフレージング(02:18)ですが、ここだけ後でミックスされたのではないという気がします。というのは、ポジション的にも、リズム的にも、後のフレーズへのつながりに無理があるような気がします。またジェフベックにしては珍しいフレーズです。実はこれに似たフレーズがBBAの東京公演、Sweet Sweet Surrennderのソロの後半で出てきます。何かに発想の源泉があるのでしょうが、She’s A Womanでは、後でこのフレーズを入れたいと思ったのではないでしょうか。当時ジェフベックが影響を受けたと言われるマハビシュヌあたりに源泉があるのかなと思ったりもしますが。よく聞くとこのフレーズ自体も微妙にテンポからずれています。ただ、ここだけなのでジャズのレイドバックみたいにあえてずらしたという感じではないようには思いますが。

その次の6弦から上がっていくフレーズ(02:22)は、普通なら素直に5フレットあたりの運指で弾きますが、ジェフベックは、開放弦とハンマリングオン、プリングオフなどを使って、弾むように弾いています。このあたりが独特のニュアンスを作っていると思いますが、ブルースをルーツに持つギタリストとの違いではないでしょうか。こういう運指のクセは、ロカビリー奏法やその元になるカントリーから来ているのだと思います。カントリー奏法では開放弦とハンマリングを多用しますしね。

次のセクションは急に4弦14フレットに飛びます(02:30)。チョーキングの途中でマイクをリアに変えています(02:47)。こういう細かいニュアンスがジェフベックらしい所です。この後ハイポジションをペンタトニックで降りてくるフレーズ(02:52)へのアプローチも普通ならピッキングで弾くところをハンマリング&プリングオフなどで弾いています。このあたりはクセなのでしょうが、こういう運指は一般的にはあまりしないのではないでしょうか。しかし、ピッキングで弾くのと微妙にニュアンスが変わってきますね。そしてまたペンタトニックで上がっていきますが、ここでチョーキングする音がジェフベック独特です。ペンタトニックによる一般的な演奏なら、この音ではチョーキングしないと思います(笑)

最後1弦の限界まで上がってチョーキング(03:00)〜5フレットに急降下する流れも実にジェフベックらしい流れです。ここで下がっていくフレーズも、普通ならチョーキングしない音です。

そして5〜6弦5フレット付近で弾くフレーズ(03:07)。普通なら5フレット3フレットを行き来して弾くでしょうが、ここでもジェフベックは、開放弦とハマリング&プリングを使ってたたみかけるように弾いています。一瞬なにを弾いているのか分からないような感じがしますが、音の固まりになるようなまとめ方をすることで、違うニュアンスにしているのではないでしょうか。6度和音で下り6弦4弦のA音のオクターブ(03:12)。

その次が難しい。3度5度の音のコンビネーションを各ポジションで繋ぎながら17フレット(1オクターブ上)まで上がっていきます(03:16)。最後、3弦から1弦にあがってハイポジでのチョーキング。3弦をチョーキングしているように聞こえますが(03:19)、どうやらマイナス5度のブルーノートを弾いているようです。ここでソロが終わります。

●Bメロ
Bメロからかなり崩して弾きます。Dのペンタトニックのポジションで展開しますが(03:26)、この辺のスケールポジションを変えて弾く(Aのキイの曲でもDに行くとDのスケールで弾く)ところもカントリー奏法から来ていると思います。ここからAに戻るフレーズがスライドを使った不思議な運指です。このような運指で弾く人はいないんじゃないかと思います。何から来ているのか分かりませんが、最後のA音に戻るフレーズ(3:31)は、ジャズなどでよくあるパターンです。

次のE-D-Aに行くとこから、通常版では確実に差し替えられています。差し替え前のテイク(4ch盤、SACD盤)では何を弾いているのか良く分からないというか、弾き澱んでいるようなフレーズです。だから、もっとはっきりしたフレーズを重ねたのでしょう。ジェフベック得意の半音トリルでEコードから5弦開放弦まで降りていきます(3:33)。ここで開放弦を使うのもあまり一般的ではありませんね。この流れも実にジェフベック的なフレージングです。

●エンディング

このあたりからはエンディングに向けてバッキングのコードはずっとA-D-Fmaj7-E11の繰り返しになっています。ジェフベックのフレーズもADEのコードトーンを意識した音になっています。

6弦を4フレットまで上がって5弦解放(03:33)、その次は、急に歪み音の3弦10フレットに飛びますが、ここは別テイクに切り替わっているのではないかと思います。ちょっと無理があります。3弦のA音から4弦A〜5弦E〜6弦Eまで降ります。ここまでが通常版の差し替えテイクです(03:54)。

3弦のE音からスタートするフレーズは、弾く前からEが鳴っていますが、これは元のテイクの音が残っているからです。ここからまたクリーン音で最後までいきますが、2音チョーキング(04:06)のところは、14フレットに飛びます。
最後はオクターブ奏法で行ったり来たりですが、一瞬3弦4弦7フレットのハーモニクスを使いそれにトレモロアームによるビブラートがかかっています。このビブラートは、ナットから糸巻きの間を指で押さえたのではないかということも考えられますが、その場合は音の変動が上になります。音源では下向きに変動しているのでトレモロアームだと思います。


こうしてカルト的に子細にコピーしてみると、かなり変な運指やポジションで弾いていることが分かります。こういうヘンテコな弾き方がジェフベック独特のニュアンスを生んでいるのでしょうね。だから、普通にコピーしても「音は合っているけど、ムードは違う」という風になってしまうのではないでしょうか。
とにかくやはり、ルーツにロカビリー(やカントリー)が強くあるというのが大きいのではないかと思います。