01 Earthquake
02 Roy’s Toy
03 Dirty Mind
04 Rollin’ And Tumblin’
05 Nadia
06 Loose Cannon
07 Rosebud
08 Left Hook
09 Blackbird
10 Suspension
2000年11月リリース
<メンバー>
Jeff Beck:guitar
Jennifer Batten:guitar
Imogen Heap:vocals (tracks 3, 4)
Aidan Love:programming
Steve Alexander:drums
Randy Hope-Taylor:bass
Contents
純度100%、濃縮2001年型ジェフベック。
いや~これはまさにジェフベックです。私はウレシイ。前作はちょっとどこかへ寄り道してた感を持っていたので、ジェフベックが帰ってきた、そんな感じです私としては。今回のアルバムは、全編打ち込みリズムで形態からすると前作の延長線上にありそうですが、いやいや、私はこれは似て非なる物だと思いますよ。前作のプロディジーの上にただベックのギターが乗っかっているだけのような中途半端なテクノ(私見です私見。前作はどうもバックとベックが遊離しているように感じる)と違って、本作は、もうギターと打ち込みがまるで親戚のように一体化して、暴れまくってますわな。これはもうテクノではなく、ジェフノあるいはベクノ?。そうです、ジェフベックはこうでなくっちゃあね。この何が起こるか分からないような緊張感とスリル、発見と驚き、これこそがジェフベックの醍醐味です。粗っぽいというか凶暴な感じ。あちこちにジェフベック・・・これはもう2001年型ジェフベックの固まりと言えるんじゃないでしょうか。
”打ち込み”に本格的に打ち込んだ?ジェフベック。
(注:以下も前作についてのコメント、少々辛口です。前作を気に入られている方、お気を悪くされたらすみません。あくまで、私見ですので。)
打ち込み系ということで、好みも分かれるところでしょうが、前作の、作り込みの甘い打ち込みと違って今回は、かなり練られていると思います。また、人間が叩くにしても、前回のただリズムボックスの代わりに叩いているだけのような中途半端なドラムは、ジェフベックに余分な制約を与えるだけです。おまけに生身の人間ですから、コミュニケーションも必要、相手のプレイも尊重しなければならない。刺激を与えないプレイヤーは、足かせでしかないのです、ジェフベックの音楽においては。
それならいっそ、アイデア次第で何とでもなる打ち込みの方で作り込んでいった方がずっとジェフベックのギターを解放してくれるってもんですぜ。ほんとに。
このアルバムはまさしく制約から解放されたジェフベックが、不思議なことに打ち込みと一体となって炸裂しまくっているって感じでおますわな。ベックのギターのトーンが驚くほど、打ち込みと似ている。打ち込みを似せたんだろうけど。でもリズムといい、なんか打ち込みに魂さえ感じられます。これは打ち込みのプログラマーのセンスでしょうね。
そうそう、ギターソロなんかもかなり編集したそうですから、それこそエンジニアやプログラマーがバンドのメンバーだと言えますね。まるでビートルズとジョージマーティンの関係みたい。ま、打ち込み系にした理由の一つには、いいドラマーを雇う金がなかった、あるいは良いヤツが見つからなかったということもあるのかも知れませんが、打ち込みというものをジェフベック自身が面白がっているということがあると思います。何らかの可能性を感じているという。きっといずれ、あっというような打ち込みの使い方を思いつくんじゃないですか。その背景には、ひょっとしたら昔のような「かけあい」的なものに飽きてしまったということもあるかも知れません。さんざんやったでしょうからね。昨年(1999年)のインタビューで言っていた「フリーウェイジャムは、もうやりたくねぇ。やりすぎて、飽きた」ということがある程度象徴しているのかも知れません。
ジェフベックが踊れるリズム環境。
前作の時、打ち込み系ではジェフベックのギターが生きる”間”がないため面白くないのだと思ったんですが、今回のを聴くと、要はリズムと作り込みの問題だということが分かりました。前作のような8ビート系のものは単調になりがちでベックのギターが踊れる間ができないのですね。今回は特に2曲目なんかの16ビート系のリズムは、ジェフベックの得意とする、踊れるリズムです。打ち込み系でも、リズムとディティールを作り込んでいくことで”間”がつくれるし、打ち込みのテイストがジェフベックのギターを生きも殺しもするのですね。ただ、この間は人間のドラマーとのコンビネーション(インプロビゼーション)で生まれる間とは違うものですが。もちろん、リズムだけの問題ではなく、それに乗っかるアレンジや楽曲自体も前作とは根本的に違うと思いますが。
ま、ベック自身も前作ではちょっとトホホと思っていたんじゃないんでしょうか、インタビューでは満足しているなんて強がり言ってましたが、さかんに「オーディエンスの反応が」なんて気にしていましたからね・・・。だから、やばいと思ってこんなに早くニューアルバムをリリースしたんじゃないすか(私見+推測です)。金がないからかも知れないけど。
金と意欲に目がくらみ・・・。
そうそう、このアルバムに先駆けていつになくあちこちのインタビューに愛想良く答えていました(でも、人生相談まで受けることないだろうに=週刊プレーボーイ)が、どこでも金がない金がないと言ってましたね。今回の録音もスタジオの時間に限りがあったなんてことを言ってましたから、きっと本当にないんでしょうね。
金がないといっても、食うには困らないとは思うけど、「金がないとプレイヤーを雇えない」そうだから”今、金がない”ということは、”今は、いいプレイヤーを雇えていない”ということになり”現在のメンバーは必ずしもジェフベックが理想とするプレイヤーではない”ということになります。
そう考えると、いろいろなことが全部つながってくるぞぉ~(名探偵コナン)。これからベックはしばらく精力的に活動するでしょうね。良いプレイヤーを雇えるだけの金ができるまで。そしてその暁には、信じられないような素晴らしいアルバムがリリースされるっていう・・・。
何せ、ジェフベック自身かなり意欲的なことは確かだと思います。前作前後のツヤーやなんかでウォーミングアップして、だんだんアイデアがわいてきたんじゃないでしょうか。本作は、そのいくつかをギュっと凝縮したものだという感じがします(それで時間が36分と短いのか?)。だから、まだまだアイデアがあるんだと思いますよ。そのいくつかは、刺激的なプレイヤーとつくりあげていくのかも知れないし、今はとにかくジェフベック自身がインスパイヤされやすい状態になっているということかも知れませんね。
ジェフベックの源泉聴衆。
私は、本作を聴いたとき1曲目で「ベックオラ」を思い出しましたが、あのアルバムにある音の洪水度やギターのうねりやエネルギー、サウンドの組み立て方が非常に似ている気がします。それはきっと原点に戻った言うのではなく、ジェフベックの本来持っているグルーブやサウンド感がそういうものなのだと思います。
そういう意味でも非常に健康的な感じがしますね。ただちょっと、生き急いでいる感じがしないでもないですが、何か内なる衝動を表現したいというエネルギーなのかも知れません。
インタビューでも「これが本当の意味でのファーストソロアルバムだ」みたいなことを言っていますが、なんとなく分かります。他のプレイヤーからの刺激に対するレスポンスやインスピレーションによって組み上げていたどこか儚い(プレーヤーが変わると成立しなくなる)従来の路線と違って、自らを源泉にしてギターサウンドを組み上げている本作は、ジェフベックの純度が高く、そういった意味では安定感のあるジェフベックテイストを持っていると言えるかも知れません。
しかし、これが出た今では、前作は何だったんだろうと思いますね、私の場合。Who else!の音が本当にうすっぺらに聞こえてしまう。2つを並べてみると「ブローバイブロー」から「ワイヤード」への流れと似ているようですが、「ブローバイブロー」の革新性に比べWho Else!は、ちょっとなんだか物足りない。上へあがるためのな踊り場のようなアルバム。10年ぶりの割には、インパクト弱い。その前の年のツアーだけでやめておいた方が良かったかも。
いっそ、11年ぶりに本作を出したら、私なんかアラスカあたりまでぶっ飛んで行ってしまってたかも知れませんね。もうWho Else!のことは忘れてしまいそうです。来るライブでも、あのメンバーでWho Else!の中に演奏して欲しい曲は残念ながら1曲もありません(私の場合)。ライブは前回と同じメンバーなのでドラムが残念ですね(しかし、どうやら今回は違うドラムが来るらしい/11.20現在)。なんなら、昔のYMOみたいにプログラマーと一緒にライブをやるって方が面白いかも。
2000.11.20
新しくて懐かしいサウンド。
サウンド面では本作の打ち込み、誰かに似ていませんか?私は、テリーボジオだと思いました。ギターショップ以来、1995年のツアーでもボジオでしたが、意識しているかどうかは分かりませんが、これがジェフベックの理想とするリズムサウンドなのでしょうね。本作のリズムを人間でやるとしたら誰が適任かと考えたら、まさにテリーボジオしかいないなんて思うんですがいかがでしょうか。
それこそ金があったらボジオが雇えたってことぢゃ~ないんでしょうか?おっさん。でもボジオにはさんざんレコーディングにつき合わせておいて全部没にして嫌われているのかも知れませんしね、来てくれないかも。しかしねぇ、ライブでこのアルバムの曲をボジオのドラムでやる。考えただけでもゾクゾクしませんか・・・・そう思うのは、私だけでしょうか???
ギターの方は、久々にワウワウ(クライベイビーか?)が活躍しております。それにちょこっとリングモジュレーター系。なんか懐かしいエフェクターですねぇ。そんなところも私にベックオラを思い起こさせたのかも知れません。
もはや曲ではない?曲はいらない?究極のギターサウンドを凝縮。
このアルバムでのもうひとつの特長は、曲が曲らしくないということです。ちゃんとしたメロディがないものが多いし、メロディなのかアドリブなのか、イントロなのか、もうテーマなのか、サビがどこにあるのか・・・・よく分からないというものが多いです。
これは要するにいわゆる「曲」というものは二の次だということなんじゃないでしょうか。インタビューでは、曲がうまくいったとか言っていましたが、この曲というのは、従来のようにイントロがあって、テーマがあって、サビがあってというものではなく、そのまわりにあるアレンジのようなものだと思います。環境というか状況というか、従来で言えば曲の器に当たる部分なのかも知れませんが・・・。
ギターショップの時にも同じような感じがありました。曲が急に終わってしまようなもの(Where You were)や、曲なのか何なのかよく分からなかったり(Guitar shop)。この頃から、いわゆる従来的な”曲”にはこだわらなくなったんじゃないかと思います。そのあたりの感覚は、Who else!にもあって、WHAT MAMA SAID(もっと壮大な曲だったのを一部だけ使ったらしい)やSPACE FOR THE PAPAなんかは、テーマメロディなどよりバックグラウンドが大切という感じです。
これらは、ジェフベック自身がとにかく従来的なことはやめようとしていることと、自分のギターを何とか違ったイメージに響かせたい、と同時に最もギターが格好良く聞こえる状況づくりを突き詰めていった結果なのかも知れません。そこにはメロディというものさえかえってジェフベックのギターを過去的なものに引き戻してしまうという、新しいことをやるには足かせに成ってしまうのかも知れません。 Who Else!のBLAST FROM THE EASTなどは中近東風のメロディで私は好きなのですが、そこでのジェフベックのギターは、メロディ部分はともかくソロは、ジェフベックにしてはとりたてて言うほどのこともない、ごくありふれたものです。
以前のインタビューで「90年代に入ってギターの居場所がなくなった。メロディがあってソロが来てというようなものは、もうお呼びじゃないんだ」みたいな意味のことを言っておりましたが、そういった従来的なギターミュージック自体の煮詰まり感に対する執拗な反発が、これらのサウンドの構造に至らせたのではないかと、細かいことばかりを考えてしまう私としては思います。こういった状況になると一歩間違えば、効果音やサウンドトラック(フランキーズハウスのような)のようになってしまう(そのように感じられた方も多いのでは)ところですが、ジェフベック独特のうねりとタイミング、そして今回は編集によって、ハードでロックなギターサウンドになっていると思います。
従来から、緻密に計算された進行よりも他のプレイヤーとの偶発的な状況と対峙することで、独特の間や緊張感を生み出していたジェフベックのギターですが、現状では、ある意味で歪(いびつ)な曲による緊張感が、従来的ではないギターの切り込み方を可能にしているのではないかと思います。
2000.11.28
今回は全体的にワウワウをトーンコントローラーとして使っているのが印象的です。ご存じの方も多いと思いますが、モンゴルにホーミー(ホーメイ?)という口の中で舌の操作で独特の倍音をだしながら歌う、驚愕に値する歌唱法があるのですが、今回のジェフベックのワウワウを使ったトーンの出し方は、ホーミーの快感に近い感じがします。
各曲紹介
1.Earthquake
頭から、おっ来たぞと思わせる曲。ギターのテーマ?の入り方がとてもジェフベックらしい感じ。重低音リフが怒濤のように鳴っている対極に非常に高音でも同じようにピーピーとリフを入れているのが、ベックオラのオールシュックアップの音づくりと似ている気がしました。ソロは、弾いていると言っていいのか鳴らしていると言ったらいいのか、ジェフベックならではの感覚ギター。
2.Roy’s Toy
1曲目が終わって実にいいタイミングで始まりますね。これまたベックにぴったりの曲。この曲のリズムは、ジェフベックのギターが最も生き生きと飛び跳ねることのできるリズムの一つです。私は、この手の曲が好きですね。左のワウワウを半開きにしたまま刻んでいるサイドギターが、まるで打ち込みのようで面白い。あえて、それっぽくしたんだろうなぁ。このリズムトラックは、一見普通なようでカッコイイ。ソロでは、久しぶりにリングモジュレーター(フリケンシーモジュレーター?)が登場しています。ワイヤードなどの頃によく使っていましたね。これは、このリズムとベックのギターのからみによるグルーブを楽しむ曲ですね。
3.Dirty Mind
これもワウワウを使っています。この頭の破壊力のあるリフもピックなしで弾いているんでしょうね。リズムによるのかも知れませんが、ヤンハマーグループとのライブで演奏されたフルムーンブギー的なノリがあり、緊張感のある演奏です。聴き所の中間のソロでは、ペンタトニックによる昔ながらのたたみかけるようなソロが聴けて安心された方も多いんじゃないでしょうか。カッコイイですよね、ちょっと変で。こういうソロのある曲をもっと聴きたいと思うのは私だけではないと思います。
しかし、ベックにしては珍しくエッチな曲。関西人の私は、中間のブレイクのところなんか「エエか・・・エエか・・・エエのんか?・・・・!」とゆーてるみたいに聞こえますがなホンマに。
4.ROLLIN’ AND TUMBLIN’
でました、マディウォーターズの名曲。リフがめちゃめちゃカッコエエ。新しいこと追究していても、こういったオーソドックスなブルースフィーリングを出すのが実に実に実にうまい。さすが、まいりました。このボーカルは、歌い方がポールロジャースに非常に似ていますね。思いませんか?ポールロジャースのその名も「マディウォーターズ」でのボーカルに似ている気がします。ベックのギターも切れの良さといい、微妙なビブラートといい、抜群。ソロは大分編集がされているんでしょうが、ギミックが効果的ですね。
5.Nadia
ギターショップ以来エスニックな曲が必ず1曲入っております。前作では中近東的、今回はインドです。次回はきっと沖縄でしょうな。ベックのやる沖縄、格好良さそう。沖縄の音階って、不思議なカッコ良さがあります。あれは独特。いや次回が沖縄と決まっているわけではないので・・・。今回の曲は、インドの有名な歌手の曲らしいですね。インドといっても非常に透明感のあるサウンドで、シタールで聞かれるような、あの不思議な音階の雰囲気をうまくとりいれているのはさすが。 そういや、ヤードバーズのアルバム「リトルゲイムス」の中にジミーペイジが生ギターを変則チューニングでシタール風に演奏する「ホワイトサマー」という曲があり、私は非常に好きなのですが、その曲も非常に透明感のあるインドです。ちなみのこのホワートサマーは、レッドツェッペリンの「ブラックマウンテンサイド」へとつながります。このナディアは、このアルバムの中で、一般の人とジェフベックをつなぐ唯一のポップな要素(^^)。プロモーション的にも必要なんじゃないかな。ニュースステーションに出演した時にもやっていました。
6.Loose Cannon
独特の重量感のある曲。ワウでこもらせて倍音を強調し、独特の音の固まりにしてそういったイメージを出しているんでしょうね。
7.Rosebud
なんか懐かしいようなアナログな感覚のギターサウンドで始ります。こういった感覚をうまくミックスしているのは、プロデューサーのセンスによるのでしょうか。リズムトラックの一途な無機的さと対比してユニークな音の空間をつくっていると思います。
8.Left Hook
この曲は・・・・・私はなんかよく分からない。なんかのサウンドトラックみたい(全部そうだとも言えますが)で、なんかとりとめない感じがします。ただ、ギターの音の出し方や最後の方のはや弾きの辺などの破壊的な感じが
9.Blackbird
鳥のさえずりとベックのギターがこんなに似ているとは気づきませんでした。
10.Suspension
知らない間に次の曲に入っていたんですね。こりゃ、失礼。最近こういった湿っぽい曲がありますなぁ。イギリス人ですなぁ。さんざん、ギャンギャンしたサウンドを聴かされた耳には、清涼剤ですけどね。
こうしてひとつひとつ聴いてみると、ジェフベックのギター自体は、非常にテンションも高く、充実していると思うのですが、じゃあ代表曲はどれだというと困ってしまいますね。きっと、これ全部で一つの曲という風にとらえた方がいいのかも知れない。組曲みたいに。ソロらしいソロが少ないのも、ジェフベックがギターサウンドのあり方をそこにおいていないということがあるのでしょうが、従来的にはジェフベックの持ち味の大きな部分がソロにあると思うので、少し物足りない。私的には、前作がいまいちだったので、こういったガンガンのジェフベックによる本作で喜んだところもありますが、過去にしがみつくなと言われようと、第二期ジェフベックグループみたいなサウンドもやってほしいなあと思いますね、やっぱり。
2000.12.03