初めてジェフベックを聴くなら、おすすめはどれか?

「ジェフベックを聞くならどのアルバムが良い?」と、「おすすめアルバム」を訊ねられることがあります。その返答は、ファンの方なら分かると思いますが、非常に難しい。
「これぞジェフベック!」というアルバムはどれかということが言えないためです。なぜなら、ジェフベックのキモはギターの演奏だからです。
そう言う意味では、どれでも良いということになりますが、それもまた違う。なぜなら、時代によって音楽スタイルが非常に異なるからです。古くはブルースロック、そしてR&B的なもの、ハードロック、ジャズロック的なスタイル、ロカビリー、その後はどんどんノンジャンルになっていっていろいろなスタイルが混在するようになります。

そういった音楽のスタイルは「好み」があるので、ハードロックが好きな人はそういうスタイルの時期のが好きだろうし、フュージョンっぽいのが好きな人がまた然りだろうしという事があります。いわゆるロックギタリストで、この人ほど、音楽のスタイルが極端に変わってきた人も少ないのではないかという気がします。
さらに言えば、ソロ以降のジェフベックは、音楽スタイルに対して明確なビジョンを持っていたわけではなく、その時に面白そうな人とコラボして結果的にこうなった的な部分は大きいと思いますので、ますます「これぞジェフベック」というのが難しくなります。これぞジェフベックではなくて、どれもジェフベックなんですけどね(笑)

どの時代もジェフベックのギターの個性は一貫していて、その独特のテイストがジェフベックの音楽を作っている。音楽のスタイルにかかわらずその個性を放っているという面が凄いところでもあります。そう考えると、どれを聞いても良いと言えるのかも知れませんがう〜ん難しい。

しかし、大きく見ていくとある程度の分類と傾向の整理ができるので、それを軸におすすめの仕方ができるかも知れません。
また、ジェフベックのギターの魅力はライブだと思いますので、BBAやソロ以降に何枚かライブが出ているので、それから聞くというのもアリかと思います(本当はこれが正解なのかも)。

■まず弾き方で分ける。
大きく分けて「ピック指弾き混在時代」と「指弾き時代」に分かれます。
アルバムで言えば、1980年の「There And Back」までが「ピック指弾き混在時代」、そ後の「Flash」以降が「指弾き時代」です。(例外的にロカビリーのカバーアルバムはピックを使っています)

★「ピック指弾き混在時代」と「指弾き時代」について
一般的に「ピックを使った奏法から指弾きに変わった」という言われ方が多いですが少々違います。
ジェフベックは、ブルースというよりロカビリー奏法(あるいはカントリー奏法)がルーツなので、昔から「ピックと指を使って弾く」ということを常態的に行っています。ピックだけで弾いていたわけではありません。
BBCの番組に出演した映像がYoutubeに上がっていますが、途中でピックを口にくわえて指だけで弾くところがあります。そういうのが実は随所にあります。

ピックで弾いているように聞こえる音も実は指で弾いていたりします。そういう事にも目を配って正確に言うなら「途中からピックを使わなくなった」というのが正しい言い方です。この「ピック指弾き混在時代」と「指弾き時代」では、実はギターサウンドやフレーズがかなり違います。

「ピック指弾き混在時代」には、独特のコードワークやリズムのカッティング(ストローク)が聞かれましたが、「指弾き時代」にはあまり聞かれません。特にカッティングは奏法として無理があるからです。指弾きでも指の腹を使ってうまいことカッティングしていますが、それでもピックの時のような、”本人も二度とできない”絶妙な細かいニュアンスのカッティングは聞かれなくなっています。そういうのを聴くならやはりライブになります。本当はブートレグでライブを聴くのがそういうのを一番楽しめるのですが、それはマニアの領域(笑)

そして「ピック指弾き混在時代」には、いわゆるロック的なひとつのリック(短いフレーズ)としてまとまりのある、これも独特のかっこいいフレーズが聴かれましたが、「指弾き時代」になるとトレモロアーム(最近の言い方ではワーミーバー)を併用した、ぐにゃぐにゃのなんとも形容しがたい独特のフレーズや擬音のようなのが多くなり、先のロック的なまとまったリックが少なくなります。

以上のことから、いわゆるオールドロック的な分かりやすいギターを聞くなら「ピック指弾き混在時代」(There And Backまで)、もっと自由な異次元的ギターを聞くなら「指弾き時代」(Flash以降)と言えるのではないでしょうか。
(もうひとつ留意したいのが、歌バンなのかインストなのかです。BBAまでは基本的に歌バン、以降はインストになりますが、たまにスタジオ盤にも歌の曲もまじっていたりすることがあります)

しかし、ではその中で何を選ぶかという問題が新たに起こってきます。
次の軸としてはやはり時代別でしょうか。

■「ピック指弾き混在時代」(ヤードバースからThere And Backまで)
ジェフベックが世にでたバンドは、ヤードバーズです。時代は、60年代後半のイギリスのロック創世記。

ヤードバーズもブルースをベースにポップな曲やサイケデリックな曲をやっています。
しかし、この頃は、まだいわゆるロックギターのサウンドが確立されていないので、結構ペンペンの音だったりするため、いわゆるディストーションの効いたロックギターという感じではありません。ジェフベックがロカビリーを原点にしているところからもロカビリー的なサウンドが中心です。それはそれで良いのですが、まだ未完成な感じは否めません。
一応代表としては「Roger The Enginieer」(1966年)という線画イラストのジャケットのアルバム。しかし、聞くべき曲がこれにすべて入っているわけではありません。この時代のCDは、実は編集物がたくさん出ているのでそれを聴くのも手です。
聴くべき曲としては、Heartful Of Soul、Jeff’s Boogie、Over Under The Sideways Down(以上はRoger The Enginieer収録)、Train Kept A Rollin’、Stroll On(Train Kept A Rollin’の別バージョン、エアロスミスで有名、日本ではサンハウスやシーナ&ロケットで有名)、Happenings Ten Years Ago(ジミーペイジとツインリード)でしょうか。

ヤードバーズ以前にブルースのセッションに参加しているのがあり、それも結構ベックらしい聴き応えのあるギターです。アルバムとしてはBlues Anytime Vol.1で、編集モノもでています。参加曲としてはChacklsほか曲くらいですが。ってこれは初めて聴くべきものではありませんね(笑)趣旨が脱線。

ヤードバーズの次に少しだけソロの時期があり、日本ではポールモーリア楽団でヒットした「恋は水色」やベック自身が歌う「Hi Ho Silver Lining」がありますが、これはベック自身も黒歴史として語りたくない時期として有名です(笑)ロックギターとはかけ離れたもので、最初に聞くべきものではまったくありません。
「Hi Ho Silver Lining」は、当時ヒットし、後にイギリスで何かの人気TV番組のテーマソングになったらしく、今でもかかることがあり「オレをイライラさせる(笑)」と言っていました(笑)最近ではイベントなどでこの曲を演奏していることがありますが、半ば自虐的に苦笑いしながらやっているのでしょう(^^)

さて、その次のジェフベックグループからが聴き所です。
第1期ジェフベックグループは、ブルースロックです。いわゆるブリティッシュロックの基本になったと言っても過言ではありません。シャウトするボーカルとギターが対になって演奏するというスタイルは、レッドツェッペリンほか多くのバンドが影響されてています。
メンバーには、ロッドスチュアート、ロンウッド(このバンドではベース担当)がおり、彼らはこのバンドで世に出ました。その他、ピアノのニッキーホプキンスやドラムのミックウォーラ、アルバムには入っていませんが、エンズレーダンパー(後にフランク・ザッパ、ジェファーソン・スターシップ、ホワイトスネイク、ジャーニーなど)やトニーニューマン(後にデヴィッド・ボウイ、ドノヴァン、T-Rex、Boxerなど)というロックの創世記を支えてきた名ドラマーも参加していました。
アルバムとしては「Truth」(1968年)「Cosa Nostra Beck-Ola」(1969年)の2枚です。「Truth」ではレスポールを「Beck-Ola」ではストラトを弾いています。この2枚は、同じバンドですがかなりテイストは異なっています。「Truth」はベーシックなブルースロック、「Beck-Ola」は」ブルースロックをより攻撃的に演奏しているという感じです。

第2期ジェフベックグループは、どちらかというとソウルロックと言っても良いようなサウンドです。モータウンサウンドをドラムをヘビーにしてベックのより感覚的なギターを載せたようなサウンドで、今でも新鮮ではないでしょか。日本のコアなジェフベックファンにはこのバンドが好きな人が多いようです。
スティービーワンダーのカバーなどもしていて、ブルース色は消え、メジャーセブンスや分数コードを多用した浮遊感のあるサウンドで第一期ジェフベックグループとはまるで違います。ですので、いわゆるハードロックが好きな人にはちょっと好みが違うかも知れません。
ドラムはコージーパウエルで、とても緻密でタイトなドラムを叩いています。コージーはレインボー以降が有名ですが、このバンドの頃の方がよりテクニカルです。
アルバムとしては「Rough And Ready」(1971年)「Jeff Beck Group」(1972年)の2枚です。どちらもR&B的なサウンドにジェフベックの変態ギターが乗っかった新鮮な演奏が聴けます。どちらもテイストは似ていますが、この2枚であればスティーブクロッパーがプロデュースした「Jeff Beck Group」がおすすめかも知れませんが、2枚でカップリングされたCDも出ていると思いますので、それがお得かも。

ハードロックが好きな人には次のBBAがおすすめです。
Beck Bogart & Appiceです。バニラファッジやカクタスをやっていたカーマインアピス(Dr)ティムボガート(Ba)という強力なリズム隊とジェフベックが組んだと言うことで、クリームの再来などと騒がれたくらいトリオとしてのハードでインプロバイズされた演奏が聴けます。
スタジオ盤は「Beck Bogart & Appice」(1973年)、曲のテイストとしては、わりと第二期と似ていたり(バンド自体が二期から変遷して成った)しますが、もっとハードロック的に演奏しています。ベック自身も脂ののった時期で、ベックのユニークなギターを聞くには、2枚組みのBBAの「Live In Japan」(1974年)がよいと思います。ライブでこれだけ手かえ品かえ多彩なギターを弾くギタリストは他にいないと思います。ロックギタリストとしてのジェフベックならではの独特の演奏が堪能できます。ここで聞かれるJeff’s Boogieの高度でユニークな演奏がある面ジェフベックを象徴しているかも知れません。

次からはフュージョン時代に突入。
実はジェフベックをフュージョンというのは、少し違和感があるのですが、いまはそういうカテゴライズになると思います。当時はジャズロックあるいはクロスオーバーなどと言われていました。フュージョンと言うよりもう少しゴリッとエッジが利いた感じです。ジャズっぽくてロックなギターが好きな人には、ここからThrere And Backまでがおすすめです。

BBAが自然消滅して1年後に出したアルバムが「Blow By Blow」(1975年)で、これがファンキーなインストルメンタルだったので当時のファンは驚きました。このアルバムは、ジョージマーチンがフルプロデュースしていて、商業的にも成功し、ロックギターのインストルメンタルアルバムとしても時代のエポックを作ったアルバムです。このアルバム以降、ギタリストのインストアルバムが増えました。
そう言う意味では、おすすめかも知れません。ドラムは後にインコグニートで活躍するリチャードベイリーです。これだけでファンキーなのが分かるというものです。
ジェフベックファンの定番、哀しみの恋人達やフリーウェイジャムが聞けます。また、いかにもジャズっぽい変拍子のスキャッターブレインも入っています。さらにプロデューサーは、5人目のビートルズと言われたジョージマーチン。サウンドのまとまりというと言う面では、ジェフベックのアルバムの中で一番ではないでしょうか。

ただ、次の「Wired」(1976年)も有名なLed BootsやBlue Windが入っています。ここではヤンハマーやナラダマイケルウォルデンという完全にジャズの世界に近い人達とのコラボレーションです。この時期にはスタンリークラークなどとも親交を深めています。その次にヤンハマーグループとツアーしたときのライブアルバム「Live With Jan Hammer Group」(1976年)があります。これはライブでのジェフベックの素っ頓狂なギターやヤンハマーとのバトルが聴ける良い内容です。
次のスタジオアルバム「Threre And Back」(1980年)は、この時期の集大成的なアルバムです。ドラムには、サイモンフィリップス、ヤンハマーとこれ以降ベックを支えるトニーハイマスも参加していて、集大成ながら、以降のベックを臭わせる、より宇宙的な空間を感じさせるサウンドが登場し始めます。サイモンフィリップスの8分の7拍子、スペースブギーは圧巻です。よくこれら3枚のアルバムをカップリングしたセットが売られているので、それならバッチリではないでしょうか。

ここまでが、ピックも使いながら弾いていた時代で、以降はピックを使わなくなり、ギターサウンドが少し変化します。よりトレモロアームによる音程の変化やギミックを多用するようになり、逆にピックによる独特のストローク(カッティング)が聞けなくなります。

■「指弾き時代」(Flash以降)
この次のアルバム「Flash」(1985年)は、少なくとも最初のおすすめではありません。ファンの間でも駄作の誉れ高く(笑)ベック自身も失敗だったと言っています。何を血迷ったか当時の売れっ子プロデューサー、ナイルロジャースを起用したダンスミュージック的なサウンドをベースにしたアルバムで、ベックらしい緩急ついた味のあるギターはほとんど聞けず、ただただ弾きまくっているだけです。しかし、中にはグラミー賞に輝いたEscapeやロッドスチュアートと久しぶりにコラボしたPeople Get Readyなども入っています。また、このアルバムからピックを使わなくなりました。でもまあ、逆立ちしても最初に聴くアルバムではありません。前回のアルバムまでに当面やりたいと思っていたことをやってしまって、やりたいことがなくなっちゃったんでしょうね。サイモンフィリップスが忙しくなり、相手にしてもらえなくなったと言うのもあるかも知れません。知らんけど(笑)(・・・インタビューで「あいつはずっと叩いていなきゃ気が済まない性格で、今いそがしいいんだ」みたいなことを言っていました)

血迷っていたベックがテリーボジオと出会い、少し気を取り戻したのが次の「Guitar Shop」(1989年)です。良いアルバムなのですが、「最初に聞くべき」というアルバムではありません。ひととおり聞いた後に、こういうのもあるという風に聴くアルバムです。ベーシストがいないこともあり、ある面特異なアルバムでもあります。しかし内容は良いです。ベックの新境地という感じもします。この中のBig Blockと言う曲は、(2020年現在の)最近でもよく演奏されます。
ドラムは、テリーボジオ、キーボードは、トニーハイマスで、独特の和音世界とドラム、それにベックの指弾きのしなやかなギターが絡んでスペイシーな音の世界が広がります。やはりジェフベックは、刺激を与えてくれる相手がいないと何もできないのかも知れません。知らんけど(笑)

このアルバム以降、約10年オリジナルアルバムが出ません。
ベック曰く「ギターが音楽の主役ではなくなったので大人しくしていた」

この間、「Beckology」(Tridents~Soloの編集:1991年)という歴史を追ったベストアルバム的なものが出ていますが、結構マニアックな曲も入っていて、これを聴けばジェフベックが分かるというものではなく、意図が良く分からない内容です。そのあたりの「ベスト盤」の選曲が難しいのもジェフベックの音楽の特徴でもあります。理由は、冒頭に書いたとおりです。

 

「Guitar Shop」以来10年後に出たアルバムが「Who Else!」(1999年)。これは、ドラムンベースなどのデジタルビートを主体にしたサウンドで、ジェフベックの新しい試みでした。若い世代には受けたようですが、オールドファンは、悩みました(笑)弾き方もこれ以降と以前では同じ指弾きでも微妙に異なります。このあとの「You Had It Coming」(2000年)「Jeff」(2003年)までの3枚がデジタル路線になります。これらがジェフベックかといわれればう〜んとなります。実際、「Jeff」のあとのインタビューでは「本来のオーガニックな録音に戻す」と言っていましたし、以降のライブでは、これらの曲を演奏しているのは本当に少ないです。ただ、最初に聴くアルバムではないかもしれませんが、内容は決して悪くはないというか、サウンドとしてはモダンで多彩です。

「Jeff」の直後に「Live at BB King Blues Club」(2003年)という海賊盤のようなライブが出たのですが、これがそれまでの3枚のアルバムとはまったく違った内容で、演奏は結構粗いのですがワイルドで、本来のジェフベックだという感じです。メンバーも「Guitar Shop」のテリーボジオ、トニーハイマスです。ジェフベックが楽しそうに縦横無尽に弾きまくっています。ジェフベックのワイルドなギターを聞くならおすすめと言えます。

この後「Emotion & Commotion」(2010年)までスタジオ盤はでていませんが、「OFFICIAL BOOTLEG USA’06」(2006年)「Performing This Week… Live at Ronnie Scott’s」(2008年:DVDもあり)というライブが出ていて、この頃のジェフベックの演奏を聞くには良いと思います。昔の曲もまじえて(というか昔の曲が多い)演奏していますので、これから聞くのも良いかも知れません。その後にも「Live +」(2015年)「Music Review: Jeff Beck – ‘Live at the Hollywood Bowl」(2017年)というライブがあります。特に2017年のは、ジェフベックの50周年記念として過去からの曲が演奏されています。

 

 

 

「Emotion & Commotion」以降は、「Loud Hailer」(2016年)までスタジオ盤はなく、2020年時点でそれが最新です。
「Emotion & Commotion」は、デジタル路線以降の集大成的内容で音楽スタイルも多彩に混在しています。「Loud Hailer」は若いアーチストと組んで少しロック的なことをやっていますが、ギターの弾き方やサウンドに大きな違いはありません。

 

こうして振りかえると最近のジェフベックを聞くには、まずはライブが良いのかも知れません。その中でも映像でも見れるという面では「OFFICIAL BOOTLEG USA’06」「Performing This Week… Live at Ronnie Scott’s」「Live at the Hollywood Bowl」。さらに言えば「Live at the Hollywood Bowl」は、昔から歴史を追って曲が演奏されているという面で良いかも知れませんね。スティブンタイラーなどのゲストもいますしね。

で、結論は何やねん?って話ですが(笑)

※トリビュートアルバム、サウンドトラックなどは趣旨から外れるので除外しています。


2020.10.02