01 You Know What I Mean
02 She’s a Woman
03 Constipated Duck
04 Air Blower
05 Scatterbrain
06 Cause We’ve Ended as Lovers
07 Thelonius
08 Freeway Jam
09 Diamond Dust
1975年3月29日リリース
<メンバー>
Jeff Beck:guitars
Max Middleton:keyboards
Phil Chenn:bass
Richard Balleydrums and percussion
Produced by George Martin
いわゆるフュージョン的な音楽のハシリとなった画期的なアルバム。セールス的にも成功したようですが、さて、ギター好き以外の人が聴いても面白いのか?
Blow By Blowが出てから、いわゆるジャズロックやフュージョンといった音楽が広まって行きました。そういった流れのきっかけになったと言っても過言ではないほどエポックメイキングなアルバムです。
特にロックギターでインストルメンタルというのは画期的で、その後ロックギタリストのインストアルバムが流行りました(ほとんどがイマイチでしたが)。
また、セールス的にも成功し全米チャートでいいところへいき(4位 )、何とかオブザイヤーみたいな賞ももらったと思います。さらに、その年のベストジャズギタリストにも選ばれています。
そんなBlow By Blowですが、BBAの音楽からするとわずか一年くらいで大変な変わりようです。しかし、第二期からの流れで見るとわりと納得がいきます。
第二期のバンドは、そもそもファンクをベースとした黒っぽい音づくりで、インストなどもありました。また、マックスミドルトンによってジャズ的な味付けもされていました。BBAは、ほかのコンテンツでも書いているとおり、あだ花的なバンドなので、第二期からそのまま行けば、Blow By Blowは結構延長線上に見えてきます。とはいえ、第二期よりはずっとタイトでファンキーです。
全編インストルメンタルという所にもボーカルにこだわるジェフベックの開き直りが見えます。確かThere And Backの頃のインタビューで「ボーカルを加えたバンドはもうやらないのか」という質問に「ロッドスチュアートみたいなボーカルってなかなかいないんだよ」というような答えを返していました。
レコーディングでは、リチャードベイリー(後にインコグニート)という実に小気味よいリズムを生み出すドラマーとその相棒フィルチェン(後年ロッドスチュアートのツアーやアルバムにカーマインアピスとともに参加している)を起用していますが、BBA解散後からロンドンのクラブなどでゴンザレス(実はこのバンドは、マクスミドルトンを始め第二期のメンバーとは密接な関係がある)のステージを見に来るジェフベックの姿が見かけられたそうです。で、そのゴンザレスのドラムとベースにマックスミドルトンを加えた面子でこのアルバムはつくられています。
リチャードベイリーの話によると、トリニダード出身のリチャードは、無名の頃のボブマーリィとプレイしていたことがあるそうで、She’s A Womanのレゲェは、Blow By Blowのセッションで自然に出てきたということだそうです。また、フィルチェンは、ロンドンの売れっ子セッションマンだったそうで、Jeff’s Bookによると、ヤードバーズ時代からジェフベックとは良く知った仲だったそうです。
Blow By Blowのレコーディングでは、カーマインアピスのドラムで、ほとんどの曲のデモが録られていたそうですが、ロック的な硬さがあってジェフベックが気に入ってなかったようです。そこで、フィルチェンとマックスミドルトンの推薦で、当時すでに売れっ子セッションマンだったリチャードベイリー(当時なんと18歳)に決まったようです。
リチャードベイリーのドラムがいいですよね。特にきめの細かいロールを始め、固すぎず柔らかすぎずのタイトさが何ともいいノリを生み出しています。フラムを上手に使ってアクセントをつけています。ジェフベックバンドとしては軽めのリズム隊ですが、全く違和感がありません。この時のツアーでもバーナードパディやウィルバーバスコムという超ファンクのリズム隊で日本にもやってきました。とにかくファンクファンクファンク、BBAからするとそんなイメージの強い時期です。
また、このBBAの頃にビリーコブハムの「Spectrum」やジョンマクラフリンのマハビシュヌオーケストラをよく聴いていたそうで、そのあたりからこのアルバムの構想がかたまっていたのですね。
それを裏付けるかのように、このアルバムではプロデューサーにあのジョージマーティン(ビートルズのレコーディングプロデューサー)を起用したことで、他のベックのアルバムとはアルバム自体のテイストを異にしています。ちなみに、ジョージマーティンはマハビシュヌオーケストラ「火の鳥」のプロデューサー でもあり、ジェフベックがが依頼した理由もそこにあるそうです。なんか全体に艶やかで落ちついた味わいがあり、音のバランスがとてもいい。そう思いませんか?
セールス的にも成功したらしいですが、はたしてギター好きの人たち以外の人は、このアルバム、聴いてて楽しのか?ジャズと同じ感覚でBGMとして聴くのかなぁ???と疑問はあるのです。おそらく音のバランスがいいので一般 的にも聴きやすいのだと思いますが。 このアルバムが何度聴いてもあきないのは、内容もさることながら、この音のテイストによるところも大きいと思っています。
ビートルズのShe’s a womanをやっているのもジョージマーティン関係からと思っていましたが、何かのインタビューで偶然だと言っていました。しかし、レコーディングではジョージマーティン自身は、ジェフベックの性格に結構苦労したらしく、彼の本の中で「マックスという通訳がいなければ仕事が進まなかった」と言っていました。う~ん、マックスのおじさんは忍耐強い人なんですね。
でもマックスのおじさんはそれだけでなく、彼のリズミカルでメローなローデスも重要なポイントです。
各曲紹介
<SIDE ONE>
You Know What I Mean
BBAからの頭でこの曲を聴くと、いきなり脳味噌をかき混ぜられます。どうしてこんなにファンキーなんだとびっくりしてしまう曲。しかし、ファンキーですが汗臭いのではなく、洗練された感じ。そのあたりが英国人ですね。都会的なテーマメロディとサビの変拍子など脳味噌を揺さぶるしかけも万全。 この曲はバッキングのキーボードも聴きどころです。トレモロで左右に振れるローデスとカキコキリズムを刻むクラビネットが、この曲のふわふわしながらも小気味よいノリを生み出しています。ベックのギターはテレキャスっぽ。リードは場面 によって変えているというか、つぎはぎしたような感じですがどうかな。
She’s A Woman
柔らかいローデスの音に包まれながら優しいメロディーで始まるこの曲は、なんとビートルズナンバー。原曲とはかなり印象は違いますけどね。レゲっぽいリズムがなんとも心地よく、ベックの中では数少ない一般 BGMとして聴ける曲です。テーマメロディの合間にちょこっとフィルインされるティンバレスや隠し味に鳴っている鈴が非常に効果的です。ベックもその雰囲気に合わせてかなりジャズっぽいトーンで弾いています。トーキングモジュレーターもBBAの時のようなワイルドなものではなく、語りかけるような効果 で使っています。 このギターソロもワンテイクじゃないような感じですね。いくつかのテイクをつぎはぎしたんじゃないでしょうか、分かりませんが。
*追記:マニアックに聴きたい人に。
このアルバムはQuadraphonic盤とSACD盤にはShe’s A Womanのミックス違いが入っています。通常版の方が差し替え処理した後のミックスです。
Constipated Duck
いかにもファンクといった感じのクラビネットで始まるこの曲。始めはよく分からない曲だったんですが、よくよく聴くと単純な曲なんです。しかし、なんか独特の雰囲気で聴かせてしまう。これはアレンジも含めてプロデューサーの技ではないかと思っています。ライブでは、結構ハードな曲に変身していました。この曲のモチーフがこのアルバムの前後に手伝ったUPPの2ndアルバムの中で聴けます。
Air Blower
いかにもという感じの”ファンクの王道”をハードにアレンジしたイントロが意外とかっこいい。サイドギターもチャカポコチャカポコという、言ってみればファンクの定石を集めて曲にした直球の曲ですが、ハードなところがジェフベックらしい。 ライブだとオクターバーがさらにハードになっていました。
Scatterbrain
前の曲から続いているのか、違う曲なのか良く分からないですが、コード進行からすると、違う曲なんだなと分かる。スローなところでは、妙にジャズっぽい雰囲気がありますが、ジェフベックは基本的にペンタトニックスケールですから、根本的にアプローチは違います。その辺が、ジャズっぽい曲をやってもロックっぽさを保っている理由のひとつです。速いところのテーマは、これは完全にジョンマクラフリンの影響ですね。何でもこのフレーズは、運指練習に使っていたものだそうです。こういうコード進行の曲でもジャズの人ならスケールを駆使して流麗に弾き流すところでしょうが、ベックはペンタトニックを使ってコードごとにぎくしゃくと移動していく感じです。しかし、その一発の決めフレーズが非常にかっこよかったり、ぎくしゃくする違和感が妙に快感だったりするんです。ジャズの人に言わせれば”素人”みたいなのでしょうが。 この曲のドラムは、カーマインアピスだとアピス本人がインタビューで言っていましたが、どうでしょうかね。そう言われれば、ハイハットの使い方やトップシンバルなどがそんな感じって気もしますが・・・。
Cause We’ve Ended As Lovers
ジェフベックでBlowByBlowと言えば、必ず出てくるのがこの曲です。作者はスティビーワンダーで、もともと奥さん(何とか言う歌手)が歌うために作ったそうで、後年そちらもレコーディングされています。リーリトナーとルカサーもやっていたりします。スタジオ盤ではしっとりとした演奏ですが、ライブになると結構ハードなので、スタジオ盤の感じの方が好きですね。ここでは有名なセイモアダンカン(超有名なギター職人)からもらったハンバッキング付テレキャスター(通称テレギブ)を使っているそうです。 テレにハンバッキング? 昔なら反則切符切られるところです。
昔は、よく雑誌なんかでもフェンダー系にはシングルコイルが合うのでギブソンタイプのハンバッキングをつけるなんて無意味、愚の骨頂だからやめろなんて感じのことが書いてありました。ま、そういう先入観にとらわれた発想は関係ないということですね。だいたい、どう聞こえるかなんて個人の感性の問題なのに「良くない」って決めつけるなって(^^)
実際は、フェンダー系にハンバッキングをつけるとまた独特の音がするんですね。典型的なのがハイラムブロックです。あの太いのにペチャっとした感じの音は、その組合せならではです。ジェフベックのこのギターは、セイモアダンカンがコイルをまき直したり、かなり手を加えているようですが実に美しい音色です。
ギターソロもそんなギターの音色が生かされているって感じですね。得意の5連フレーズや半音トリルのクロマチック落下もやっていますし、このソロは教科書としても抜群。ちゃんとコピーして弾けたら結構な力がつくでしょう。・・・などと熱心に解説していますが、実は私にとってはこの曲、それほど順位が高くないんですね、どういうわけか。決して悪くはないと思いますが、それほどの感動や興奮もない。普通の美しい演奏といった感じです。
Thelonius
ファンクの王道第2弾です。定石のリズムパターンですが、やはりベックのギターでベックらしくなっています。当たり前か。ここでのポイントは、オクターバーですね。ご存じない方のために説明すると原音に対して1~2オクターブ下の音を組成するエフェクターで、当時のベックのはカラーサウンド(メーカー)のものを改造し、ミックスしたりベース音だけにしたりできたようです。で、この曲のテーマはそれで弾いているので、何かつまったようなこもったような、布団の中でオナラをしたような(失礼)音になっているわけです。何がポイントかと言えば、当時非常に珍しかった、というかほとんどレコードとしてでたのは、最初だったんじゃないでしょうか。このエフェクターの真骨頂は、次のワイヤードのCOME DANCINGで聴くことができます。
また、この曲やワイヤードのSOPHYなどで感じられるのは、ベックのギターサウンドの捉え方です。とかくジャズやロックのギタリストは、ソロが見せ所と言った感じで頑張るパターンが多いし、ベックにしてもやはりソロでの個性が持ち味ととらえられがちですが、この曲やSOPHYではソロなどほとんどなく、ある意味でベンチャーズ的な演奏です。 ソロだけでなくギターサウンドを全体的に考えているのだという気がします。
*追記:Jeff’s Bookによると、この曲は1972年の5月頃(第二期の後期)にスティービーワンダーからプレゼントされたとあります。ちょうどその頃、Superstitionが第二期のメンバーでレコーディングされています。それからするとSuperstitionとTheloniusの少なくとも2曲がプレゼントされたわけですね。Theloniusがその頃レコーディングされたという記録はありませんが、第二期のライブではI’ve Got Have A Songの導入部にTheloniusの片鱗が演奏されています。SuperstitionもBBAとは異なるアレンジで演奏されていました。
Freeway Jam
出ました18番。もうジェフベックと言えばこのパターンです。ほとんどワンコードでシャッフル、ちょっとしたテーマがついてソロ弾きまくり。この普遍的な方法論が提示されて以来、国内国外で類似品がどれほど製造されたか。ま、類似品というのは言い過ぎかも知れませんが、この方法論で我が意を得たりと様々なギタリストがこの手の曲をやっていました。この曲は第二期ジェフベックグループ時代のDefinitely Maybeという曲のBメロの部分を拡大して作ったそうですが(確かにそんな感じ)、タイトル通りの開放感とドライブ感にあふれているし、ほんとにシンプルでかっこいい曲をつくりますマックスミドルトンのオッサンは。
この曲は、3回くらいのリハーサルで録音したそうですが、ソロもいろんな要素が詰まっており秀逸のできだと思います。ジェフベックという人は、わずか数テイクでこういった演奏ができてしまうそうです。バッキングのローデスがいいですよね。ああ、私は、ほんとにマックスミドルトンのローデスが好きです。マックスローデスフェチといっても過言ではない。
この演奏はひとつカルトなチェックポイントがあります。始まってベックが弾き出した時に少しトレモロアームを動かすんですが、その際に後ろのスプリングがきしむ音(場合によってはこれ結構きしむんです)が入っています。
Diamond Dust
タイトル通りなんとも不思議な透明感のある美しい曲です。この曲でベックの新しい境地が開拓されたという気がします。作者は確か後にハミングバードのメンバーになるギタリストだったと思いますが不朽の名作ですね。またジョージマーティンによる新しい試みでストリングスが入っていますが、これがまた非常に効果的。ジョージマーティンは、ストリングスを入れるに当たってかなり気を使ったようです。始めベックはそのアイデアに難色を示していたようで、マックスミドルトンを介した話し合いの結果 、最終的にはまかせるとなり完成したものについては、ベック自身もかなり気に入ったようです。そんな紆余曲折(でもないか)で練り込まれたアレンジ、ベックのソロも表情豊かで文句のつけようがないトラックです。さすが名プロデューサー、なんかサウンドのスケールがでかいですね。ただこの曲のソロをつくるのにジェフベックは1ヶ月かかったそうです。5拍子だしコード進行が複雑ですもんね。