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There And Back

01 Star Cycle
02 Too Much To Lose
03 You Never Know
04 The Pump
05 El Becko
06 The Golden Road
07 Space Boogie
08 The Final Peace

1980年6月リリース

<メンバー>
Jeff Beck:guitar, producer
Jan Hammer:keyboard (tracks 1–3), drums (track 1)
Tony Hymas:keyboard (tracks 4–8)
Simon Phillips:drums (tracks 2–7)
Mo Foster:bass (tracks 4–7)

インスト路線のひとつの集大成的アルバム。いろんな意味で、バランスがとれています。この後から、少し傾向が変化して行きます。

ライブアルバムから4年。というより、スタンリークラークとのツアーから2年。ブローバイブロー、ワイアードに続くフュージョン(ではないけど)インスト路線の集大成的なアルバムです。本当はスタンリークラークも参加する予定があったらしく、スタンリーと録音したテイクもあったらしいのですが、結果的には入っていません。

その代わり再びヤンハマーが、しかもとびきりカッコイイ曲を提供して参加しています。また、サイモンフィリップスがたたきまくっています。非常にスペイシーなイメージで広がりとまとまりのあるアルバムで、前の2つのスタジオアルバムほどの革新的なものはありませんが、鑑賞すると言う面では、聴きやすいのではないでしょうか。

ギター奏法的には、トレモロアームの使い方が新しかったりということはありますが、基本的に従来の方法論を踏襲しています。このアルバムの後から、ギターの弾き方に変化が現れます。

このアルバムでは、トニーハイマスのキーボードの世界により、ベックのギターが鳴るバックグランドが大きく変化しています。単純に和音の使い方が違うと言うことなんですが、ベックにとっては非常に重要なことです。ベックのギターサウンドはいつも、マックスミドルトン、ヤンハマーともにやはり独特のハーモニーをもったキーボード奏者によって彩られています。バックグランドに展開される個性的なハーモニーとその流れ(もちろんリズムも)に、どうアプローチすると、よりアブノーマルでかっこいいのか。ベックのギターのクリエイションはそんな感じで行われていると思います。従って、バックのハーモニーがつまらないとベックのギターもつまらない、というより弾きようがなくなるというのに近いのかも知れません。そういった意味で、BBAが行き詰まった原因のひとつにキーボード奏者がいないこともあるんじゃないかと思います。

興味深いのは、アルバム全体としてはトニーハイマスのハーモニーの印象(特にEL BECKO、SPACE BOOGIEなど)が強いのですが、このアルバムイメージをリードしている、またはこの頃も含めベックのキャラクターとなっているSTAR CYCLEは、ヤンハマーの作なのですね。

このアルバムでのもうひとつの聴きものは、サイモンフィリップスのドラムです。不思議とコージーパウエル、カーマインアピスなどの凄腕ドラマーのキャリアで最も聴きごたえのある演奏が、ジェフベックのアルバムだったりします。サイモンフィリップスもマイケルシェンカーほか多彩なアルバムにゲスト参加していますが(すべてをきいたわけではないのですが)未だにこのアルバムのドラミングは彼のキャリアの中でも最高ランクなのではないでしょうか(この時点で)。

ドラムサウンドの録音も非常によい感じだし、パフォーマンスも最高。我が意を得たりという感じで叩きまくっています。それだけに、Star Cycleはなぜヤンハマーが叩いているのか? 本当に残念です。ヤンハマーがベックのアルバムでドラムを叩くのは金輪際やめて欲しい。と、つとに願う私です。いや、ハマーさん、それなりにうまいとは思いますが、やっぱり本職の、それも超一流とは格が違うでしょ。ウェインショーターのベースとはワケが違います。(曲解説の後につづく)

各曲紹介

Star Cycle
アルバムのはじまりとしては非常にはまる曲。これ以後、ベックのテーマソング的になる曲です。イギリスのTV番組のテーマにも使われたそうです。
ベックがシーケンサを使ったのはこの曲が初めてです。しかし、テクノっぽい感じがしないのは、ベックのギターが感覚的だからでしょうか。ソロや掛け合いのところ(特の1発目のフレーズ後半)をよ~く聴いてください。ピッキングの際にでるノイズやなんかで、ベックが音を歪ませで思いっきり(ロック的に)「ええ~いっ!!」って感じで弾いているのが分かります。そこがいいんです。フュージョンではない。ロックなんですね。ヤンハマーの作曲なんですが、素晴らしい、ほんとにどうしてこんなにカッコいいリフができるんだろう。それに非常にベック的な曲だと思います。
しかし、ほかのコンテンツにも何度も何度も書いておりますが、このヤンハマーのドラムだけはやめて欲しい。サイモンフリップスで録音し直して欲しい。

Too Much To Lose
ヤンハマーのアルバムにも収録されている曲で、1978年スタンリーと来日したときにも演奏されていました(でも2~3カ所の公演だけ)。その時は、スタクラのベースがとてもよくはまっていました。ジェフベックらしい演奏で、かつ一般的にも聴ける、またアマチュアバンドなのでも演奏しやすい曲ですね。

You Never Know
またまたヤンハマーの曲。こういったリフをつくらせたら、このオッサンは天才的です。テクノファンクの王道のような曲調ながら、サビの部分の東洋的な音階が個性的です。ライブではモーフォスターが頭のリフをかっこよくやってました。この曲では注目すべき点がひとつあります。ベックのトレモロアームの使い方に新しいパターンが出てきたことです。ソロが始まって、後半くらいから、アームを上から叩いたような弾きかたで細かいビブラートのついた音が聴こえます。以後、この弾き方(=クリケット奏法)はジェフベック奏法として定着しています。

The Pump
何でもない静かな曲のようですが、結構いいんですよね、これ。ゆったりとした流れと間の中にいろんな表情のギターがからんでいくのが心地よいというか・・・。ベックもこの曲は好きみたいで、以後のライブでよく演奏されています(1999年のツアーでも演奏された)。

El Becko
頭のピアノが感動的です。これはトニーハイマスの世界でしょうね。すごいドラマチックなピアノで始まって、メインのリフになるとオイオイという感じがしないでもないですが、いかにもベックというリフなのでファンはうれしい。ソロを楽しむと言うよりは、ベックの弾くのびやかなギターのトーンで、美しいメロディをベンチャーズ的に楽しむ曲という感じです。

The Golden Road
この曲は、ライブでほとんど演奏されたことがない。確かブートで一枚だけあったと思いますが、聴いたことはありません。ライブでも聴いてみたい曲です。ブートを探して見ましょう。真ん中のソロの前半は、ギターシンセかな。キイボードでしょうか。

Space Boogie
アルバムのハイライトともいえる曲は、サイモンフィリップスとトニーハイマスの作です。サイモンフィリップスは一度こんな曲で叩きまくりたかったんじゃないでしょうか。そんな気迫が感じられるすごいドラム。7/8拍子というのが、これまた気持ちのよいズレ方をするリズムで、ブローバイブローの「Scatter Brain」もそうでした。この曲は、もうスピーカーにがっぷり4つに組んでサイモンフィリップスのドラムを堪能する曲ですが、ピアノソロやその後半のベースなど細かいところも聴き所です。
ギターソロに入るときにジャーンとくるのが、ロックしていていいでしょう。これチマチマ入られると軟弱フュージョンになってしまうんです。ギターソロ後半からドラムは、もう爆発寸前になり、テーマに戻りますが、このあたり息をもつかせない緊張、緊張、金鳥の夏です。終わり頃にドラムがちょっと走り気味になりますが、そんなことはどうでもいい。このドライブ感こそすべてです。
ライブでは、速すぎてベックのギターはついていくのに必死という感じでしたね。この曲は、サイモンフィリップスにとってベストパフォーマンスなのではないでしょうか。ちなみにスティーブルカサーがサイモン君を迎えて作った「ルーク」というアルバムにこの曲をモチーフにしただろう曲があります。そっちもドラムがカッコイイです。さすがにこの曲は、ゼアアンドバックツアー以後は、全く演奏されていません。

The Final Peace
これもライブでは数回しか演奏されなかった曲です。いい演奏だと思いますけどね。なんか、心にしみいるようなギターです。こんなギターは、ちょっと弾けません。面白いのが、このアルバム以降GUITAR SHOPやWHO ELSE!にも同じような「しんみりギター」の曲がはいっていることで、年を重ねてベックも与作の域に達してきたんでしょうか、ヘイヘイホー。


(概要説明の続き)

ということで、ホッとした終わり方で、あ~終わった・・・・という感じです。このアルバムは、STAR CYCLE~THE FINALPEACEまで、今までになくストーリー性を感じる構成で、そういった意味でも集大成的であり、まとまりを感じるのです。
これで、ひとまずベックはやりたかったことをやってしまったという感じになったのか、迷走状態に入っていきます。それはひょっとしたらこれを書いている1999年の今でもそうなんじゃないかな。これ以後のインタビューでは、しきりに「オーディエンスの求めるもの」と言っていますので、自分は何をしたらいいのかが分からなくなってしまったのじゃないでしょうか。かといって、自分自身で「革新性」のプレッシャーをかけているので、前の焼き直しのようなことはしたくない。それらが、FLASHの失敗につながったような気がします。やはりベックには、自分にインスピレーションを与えてくれる共演者が必要なのですね。GUITAR SHOPでちょっと盛り返したのは、他でもないテリーボジオがいたからです。
きっと「このアルバムまでの焼き直しの素晴らしいヤツ」ならいくらでも出来るんだと思います。スティーブルカサーのプロデュースで録音したのも、ルカサーのインタビューからすると、そういうものだったのだと思います。