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ベストアルバム的なライブで、懐メロ的な選曲でしたが、
弾いていたのは”今”のジェフベック。
久しぶりに純度の高いジェフベックが見れました。
■2005年ジャパンツアーへの流れ
今回の来日公演には、ここ3年くらいのジェフベックの方向性や心理が反映されているところがあります。
2000年以来5年ぶりの来日です。2003年夏にアルバム「Jeff」がでて、その前後で全米ツアーをしましたが、そのメンバーはギターショップトリオ。しかも、ニューアルバムのリリースにタイミングを合わせたツアーなら、まずニューアルバムの曲を中心にしたセットリストが組まれるのが普通ですが、このツアーではニューアルバムの曲は、申し訳ほどしか入っていませんでした。
あれっ?て感じですね。ジェフベックにとっての「Jeff」というアルバムの位置づけが少し分かります。それを裏付けるように、アルバム発表後のインタビューでは「もうああいった録音のしかた(デジタルベースで行うこと)は終わりにしたい」と語っておりました。このツアーでは、終わりの方でB.B.KING経営のブルースレストランで行われたライブが「JEFF BECK LIVE」としてリリースされています。
2004年になると6月24日の誕生日を挟んでロンドンでBirthday Live(ロンウッドもゲスト出演)が行われました。その前に、2001年にロンドンで数日にわたってジェフベックの集大成的なライブ(ヤードバーズから最新までの曲をラインナップ)が行われていますが、2004年のこのライブも(少し傾向は違いますが)セットリストはギターショップ以前の曲を中心にジャズっぽいナンバーで組まれていて、「Who Else!」以降の曲はわずか。「Jeff」からは全く選曲されていませんでした。ますます「Jeff」やデジタル路線の位置づけが分かります。
このときのメンバーは、なんとヤンハマーが参加し、ゲストでロンウッドがでていました。後のインタビューによるとヤンハマーは体をこわして、もうツアー活動からはリタイアしていたそうですが、このときだけ特別に参加したようです。そのためか何となく元気がなかったですね。かつてのパワフルなヤンハマーのステージではなく、大人しく着実にサポートしているという感じでした。このライブの後、また倒れてしまったそうです。
この年の終わり頃には、ロッドスチュアートやロンウッドと第一期ジェフベックグループ再結成ライブの話が浮上し、かなりリハーサルを行ったようですが、結局、その内容が気に入らず(それぞれブースで分けられてミュージシャン同士のコミュニケーションをとりながら演奏できる状況ではなかったのが理由らしい)ジェフベックが途中で降りてしまいました。そして、2005年春に来日の話が出てきました。
そして来日メンバーは、2004年のメンバーか、ギターショップトリオか、とかいろいろ噂されましたが、ようやく凄腕ドラマーヴィニーカリウタを含むメンバーが発表され、いやがおうにも期待は高まっていきました。ジェフベックが、スーパードラマーと来日するのは1989年以来実に16年ぶりです。
来日の直前には、同じメンバーでロンドンでパティスミス主催の「Melt Down Festival」というジミヘントリビュートライブに参加し、ジミヘンの曲ばかり数曲を演奏しています。機材やセッティングなども同様でした。
前置きが長くなりましたが、そういった流れを知っていると今回のライブをさらに深く味わえると思いますので、ちょっと書いてみました。
■2005年ジャパンツアー
●バックメンバーは”仕事”で来たのか?
さて、私は、大阪公演7月8日、9日を見ました。今回のツアーの内容は2001年のライブのダイジェスト版のような内容で、第一期ジェフベックグループからYou Had It Comingのアルバムまでの中から、選曲されたベストアルバム的なセットリストでした。ここでもなぜか「Jeff」からは1曲も入っていないんですよね。
今回のライブ、昔からのファンには、満足半分物足りなさ半分といった感想が多かったのではないでしょうか。それは、メンバーの演奏がなんだか大人しかったということもあるでしょうし、いろんな楽曲がまざっており、しかも不思議なことに、歌ものなども順番が整理されていなかったいたため、ボーカルのジミーホールが出たり入ったりといった落ち着きのない感じで、ある面ではまとまりにかけたということもあるでしょうね。インストの曲では、バトルというほどのものもなかったし。
私も始めそういうものたりない感じがしていたのですが、中盤から、概ね満足、いや結構満足、いやいや大いに満足。という気になりました。
メンバーは、ドラムにヴィニーカリウタ。この人は、ジノバネリの「Night Walker」で一躍脚光を浴びた凄腕ドラマーで、テリーボジオなどと比べてもまったく引けをとらないどころか、ジャズ畑では格は上かも知れません。そして、キーボードがジェイソンリベロ。この2人はスティングのバンドのツアーメンバーで、数年前、スティングのライブにジェフベックがゲスト参加していたことからとヴィニーカリウタがつれてきたとかの縁でしょうね。プレイの身の入りなさからすると後者かも。ベースは、ピノパラディーノ。1995年のサンタナとのツアーの時もこの人でした。その時は、スターサイクルのリフをフレットレスベースで弾いていたのに驚かされました。アンコールで、たまたま愛知万博のイベントで来日していたジェニファーバトゥーンが登場し会場が沸きました。
ドラムのヴィニーカリウタは、期待通り結構良かったけれど、ベースとキーボードはちょっとリハーサル不足なのか、仕事でやっていたのか、いまいち余裕がなかったり、かといえば、演奏途中でも自分のパートがないときに手持ち豚さんになっていたりと、もうひとつとけ込んでいないというか、とりあえず仕事をこなしているという感じが否めませんでした。そこがちょっと残念。 「ヴィニーカリウタ以外は、ジェフベックに遠慮しちゃっているのかも」というのは、知り合いのプロのベーシストの感想でした。確かにそうかも知れません。しかし、ジェフベックは前回前々回よりリラックスしていて楽しそうでした。ヴィニーカリウタとのコンビネーションも結構良い感じで、ヴィニーカリウタも楽しそうに叩いていました。
ヴィニーカリウタは、テリーボジオやサイモンフィリップスのような派手で分かりやすいドラミングではないけれど、独特のタイム感とメリハリのあるさすがなドラミングでジェフベックのギターをしっかりサポートしていました。レッドブーツなんかは、ブートも含めてスタジオ盤以外では一番良かったと思います。ジェフベックのギターに合わせて次々とたたき方を変化させていって、グルーブをだしていました。ジェフベックのギターにはこういう風に臨機応変なドラミングが必要なんです。決まったビートをずっと叩いているようでは、ギターとの”良い間”が生まれません。
●ますます、磨きがかかった指弾きジェフベック。
さて肝心のジェフベックですが、ギタープレイにおいてはよりいっそう磨きがかかったというか、もう「ある域」に達してしまっているというか。先ほどの友人のベーシスト曰く「歌い回しが完璧」。ギターでの表現力が、エレキギターというものを超越しているというか、本人も「エレキギターの音には聞こえないような」と言っているように、通常のギターの”演奏”ではないような崇高ささえ感じます。しかし、しっかりとロックンロールの魂は生きているところが、なんともうれしいジェフベックらしいところです。
それと ギターの音が美しい。歪んでいるのに歪みを感じさせない伸びやかで透明感のある音を上手に出しますね。後で雑誌で見るとアンプの方はほとんど全開にしていて、ギターでかなりトレブルを絞っているようですが、かといってこもった曇りはなく、高音も余計なギラギラ音が出ないように必要な高音のトーンだけをうまくコントロールして出しているような感じです。ほんとにトーンのコントロールがうまいです。
感覚的な弾き方にもさらに磨きがかかったようで、もう次は何弾こうとか考えていない感じがします。その時浮かんだ音が無意識に演奏できる。すべての音楽家が目指す理想的な演奏状態、ジェフベックの演奏は、なんかそんな感じましますね。いちいち考えていたらあれだけいろんな音出せないと思いますよ。もう、常人では行けない域に達してしまっているのかも知れません。
ただ、演奏にはいりすぎてしまうためか相変わらずよく間違いますね。本人も「小さなミスを気にして演奏していたらグルーブなんて出せない」というような意味のことをいっていました。ただし大きなミスもしますけどね(^_^;)
でもまあそんなミスなんか吹き飛んでしまうくらい感動的なギターです。
今回、選曲が「懐メロ」的ではありましたが、演奏は決して「懐メロ」ではなく、本人もインタビューで言っておりましたが、「今のジェフベック」の演奏でした。そういう面でも非常にお得感のあるライブだったといえるのでないでしょうか。
昔からのファンは、うれしいし、新しいファンには、ジェフベックをざざっとひととおり聴けたという、何ともコストパフォーマンスの高い内容でした。
●3タイプのジェフベックギター。ワタシ的には、”合いの手ギター”に大満足。
そんなこんなで今回は、過去から現在までのいろいろな楽曲が演奏されたわけですがいろいろな楽しみ方ができました。第一期の曲やRolin’ And Tumblin’などに代表される歌入りのロックの演奏、Led Bootsを始めとするインスト路線のジャズぽい演奏、そしてNadiaやOver The Rainbowなどのギターで歌い上げる新境地の演奏。
歌ものは、前評判として掲示板でもジミーホールのボーカルに対する頼りなさが懸念されていましたが、私は結構良かったです。そりゃロッドスチュアートなどと比べるとパワーが違うかも知れませんが、タイプも違うしね。ジミーホールはまた独特のというか全方位的に歌えるバランスの良さみたいなものがあると思いますし、今回のタイプの演奏はこれはこれで良いという感じがしました。
それどころか、実は私は今回のセットリストの中では歌入りの演奏が一番楽しめたんです。着実に歌うジミーホールの歌の合間でちょこちょこ軽妙な合いの手を入れるジェフベックのギターがなんとも爽快で、かつての第二期やBBAのころの魅力がまた味わえた気がしました。
インスト路線になってバトルになり、指弾きの新境地を開拓し、デジタル路線に走り、長らくこういった”合いの手”ギターは聴けなかったのです。一部セッションものなどでありましたが、それはセッションだしスタジオだし、人の軒先で井戸端会議に加わっているようなものでした。
今回のRolin’ And Tumblin’やGoing Down(今までで一番ファンキーだった)の頭の方での掛け合いなど、ジミーのボーカルに絶妙にからむ、これはかつてのロッドとの格闘のようなものではなく、ほんと合いの手です。ボブテンチやBBAでのコンビネーションもこれでした。
この楽しさは、漫才のボケとツッコミに似ています(歌がボケているってワケではないですが)。ジミーの歌がボケでベックのギターがツッコミです。「それはキミやろ」とか「そんなヤツおるかいな」とか「このドロガメー!」(これ関西人以外は分からないかも)とか(^^)。Rolin’ And Tumblin’の間でのスライドギターでの合いの手はウキウキしてしまいました。
本来こういった軽妙な”合いの手”は”瞬間芸”も加わってジェフベックの大きな魅力だったはずです。それが近年というか、BBA以降もうここ30年くらいまともに聴けなかったわけ(Flashにちょこっと入っていましたが、蛇足のようなものでした)で、それが聴けたというのはすごい収穫です。それだけでもジミーホールが一緒に来た価値はとても大きい。
それにジミーホールのボーカルは癖がなくて、軽妙な”合いの手”の相方にはぴったりな感じです。どうせならジミーホールと組んで「懐かしのロック名曲集」のようなアルバムを作ってほしいくらいです。「ロックやブルース、ソウルの名曲の数々がジミーホールの歌とジェフベックの合いの手で、いま蘇る!」。想像しただけでもワクワクするのは私だけでしょうか?私だけ?(byだいたひかる)
ジャズっぽいナンバーの演奏はやはりバトルがないと締まりません。今回は、なんとかヴィニーカリウタが反応してくれていたのである程度白熱した場面もありましたが、本来ならベースや特にキーボードなどとのコンビネーション(=会話)があって初めて全体のグルーブが生まれるものです。ジェフベックのギター自体は、そりゃもう非常に素晴らしかったですが、その放熱を受け止めて投げ返してもらわないと面白くないものです。
キーボードのプレイヤーなどは、かなり余裕がない場面もあったりして、リハーサルが足りなかったのかなと思いました。実力のあるプレーヤーらしいから(スティングのバンドでやっているだからねえ)もう少し、しっかりリハーサルできて、気持ちも入っていたらもっと面白い演奏になっていたのかも知れません。
ピノのベースも音がよく分からなくて、イマイチ盛り上げられていない感じがしました。ベースから始まるYou Never Knowなんかも今5つくらいでしたね。1995年のサンタナとのツアーの時はテリーボジオと良いリズム隊のコンビネーションを作っていたような気がしますが、今回はよく分かりませんでした。
新境地の演奏は、指で弾くようになってからどんどん傾向が高まっていって、Where Were YouやTwo Rivers、クリスマスのオムニバスアルバムに入っているAmazing Grace、Nadiaときて今回最後にやったOver The Rainbowで、さらに極まった感があります。
トレモロアームやハーもニクス、スチールバー(時にはガラス)の絶妙なコントロールで、もうエレキギターか何か分からないような音です。ジャンルも分からない。ロックやジャズ、カントリーなど既製のフォーマットを踏襲しない、とにかく今までこんな演奏誰もしたことがないという面では、ジェフベック独自、唯一の世界ということが言えると思います。この路線は、これからももっと極められていくのではないでしょうか。ジミヘンドリックス以降、これほどまでにエレキギターの可能性を引き出した人は、ジェフベックだけといっても過言ではないでしょう。
同時にエレキギターという楽器の存在を大きくしたということも言えると思います。クラシックとの競演の話などもありましたが、歪んだ音のエレキギターでクラシックを奏でるなんて想像もできませんでしたが、この路線ならありえる。しかも、クラシックギターのエレキ版ではなく、全く違うアプローチの演奏方法です。アコースティックギターであることを置き換えたのではなく、エレキギター以外では考えられない演奏方法。そこがすごい。
重要なのは、エレキギターは、ギターという音楽的制御装置だけでなく「アンプで音を歪ます」という要素も欠かせないことです。アンプを一体化して初めて演奏できるエレキギターという楽器において、最小限の構成で最大限の可能性を引き出していることです。ジェフベックのすごいところは、あの音をエフェクターも使わず(使いますが味付け程度)、アンプとギターだけで出すところです。
曲も作らないし、歌も作らない。そんなただギターを弾くだけの人が、どうしてここまで別格扱いされるのか。やはり他のギタリストとは、そういうギターサウンドにおける純度の高さが違うのだと思います。
ジャパンツアーから話がそれてしまいましたが、今回のライブの演奏は、懐かしのジェフベックではなく、確実に「今のジェフベック」を体験できたという面で非常に価値があったと思います。なので、大いに満足なのであります。
それにしてもジェフベックは、止まっていない。うれしいことです。
●シンプルなセット。思いの外、音響が良くて感激。
雑誌で来日公演の機材を紹介していましたが、いつも通り必要な機材だけの超シンプルなステージ。ジェフベックのギターも基本はストラトとマーシャル。驚いたのは、リングモジュレーターやフランジャーなどのエフェクターはステージ横でスタッフが操作していたと言うことです。
そういうことするんですねー、ジェフベックでも。なんか不思議というか、何故わざわざスタッフにさせるんだろう?
ストラトもジェフベックモデルではありますが、シンプルなモデルでしかもメインのギターにはヒビが入っていたりして。あまり細かいことには気を遣わないというか、少々のヒビなんて音色に影響ないんだってことですね。そういや、1975年のワールドロックフェスで来日したときのレスポールも直前にヘッドをぶつけて折れて修理したとかいう話でした。3,4回折れているとか書いてありました。でも、いい音してました。
ギターアンプのラックの上には、スライドバーと手に巻くパウダーが用意されていました。スライドバーは、8日はガラスのやつとスチールと3本ずつでえしたが、9日はスチール3本だけでした。そういえば、8日演奏の途中でガラスのバーを投げたら和あれてしまって、演奏中なのにスタッフがちり取りを持って掃除に来る場面がありました。
今回は、音響が素晴らしく良かったですね。オペレーターがジェフベックのギターに合わせて操作していたのか、小さなトーンも非常にきれいに聞こえていました。大阪2日とも、とてもいい音で楽しめました。こういう面も含めて過去のジェフベックの来日公演の中では最も総合的にバランスの良い公演だったと思います。
私は、とにかくRollin’ And Tumblin‘が良かったので、ブート音源を入手して、しばらくそればかり聴いていました。
2005.8.22
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