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ジェフベックのボーカリスト旅。

ジェフベックは、ドラマーにこだわった人ですが、ボーカルにも特別のこだわりがありました。といっても、ボーカルバンドをやっていたのは1974年に解消したBeck Bogarat & Appiceまでで、それ以降は基本的にインストルメンタルの時代が長く続きますが、Flash時代から晩年までは、たまに歌曲もやるといった感じで、そのときどきのボーカリストが登場します。ただ、元ウェトウィリーのジミーホール、継続的にベックバンドに登場します。プライベートでも仲が良いようで、ジミーホールはジェフベックにとても感謝しているとインタビューで話していました。

ヤードバーズ

ヤードバーズはジェフベックのバンドではありませんでしたので、ベック加入以前からキースレルフというボーカリストがいました。キースレルフについてのベックの言及はあまり見たことがありませんが「ギターソロになると舞台の袖で吸入器を使っていた」みたいなことを話していたので、パワー不足は思っていたかも知れません。

第一期ジェフベックグループ

〜ロッドスチュアートの存在感〜
時代がブルースからいろいろなロックが誕生する中で、このバンドも基本的にはブルースロックスタイルのバンドでした。ただ、ジェフベックがソウルにも関心があったことで純然たるブルースロックと言うより、ファンキーなムードも持っていました。そのサウンドにピッタリの強力なボーカリストを見つけてきます。ロッドスチュアートです。

ロックファンでもロッドが世に出たのがジェフベックグループだということを知っている人は少ないのではないでしょうか。(ちなみにストーンズのロンウッドも第一期ジェフベックグループにベーシストとして参加していたことも知られていない)

多くの人が、フェイセズからのロッドを認識しているように思います。
しかし、当時、ロッドのパワフルでソウルフルな歌とジェフベックの破壊的なギターが対峙して演奏するスタイルは、それまでの「伴奏」だったギターのポジションを一気にフロントに押し出しました。これこそがロックバンドのスタイルをつくったワケです。

ジミーペイジは、第一期ジェフベックグループのアメリカツアーにスタッフとしてついていってこのスタイルが受けることを確信し、レッドツェッペリンに昇華させたのです。

ロッドのアイドルは、黒人ソウル歌手のサムクックで、当時のロッドの歌は歌い回しがサムクックそっくりで「白いサムクック」と呼ばれていました。ロッドの歌がサムクックをしゃがれ声にしたみたいだし、ジェフベックのギターはレスポール(ギタリストの)の演奏を歪ませた様なプレイだったしで、サムクックとレスポールが演奏してパワフルにしたみたいな構図だったのが面白いです。

このバンドでジェフベックはもちろん、ロッドスチュアートが注目されます。ジェフベックは後年のインストルメンタルの時代に「なぜボーカリストと演奏しないのですか?」と聞かれて「ロッドスチュアートのようなボーカリストがいないんだよ」と答えているところからして、ロッドの歌を相当気に入っていたようです。
1984年のジェフベックのアルバム「FLASH」ではPeople Get Readyでロッドが客演し、またロッドのアルバム「Infatuation」でベックが2曲演奏しています。

また2000年以降に、ジェフベックのツアーにロッドが飛び入り出演したり、2019年にはロッドのコンサートの後にベックが登場し、第一期ジェフベックグループの曲を5曲演奏したりということもしていました。

第一期ジェフベックグループ開催後から長い間、ジェフベックとロッドは犬猿の仲だと言われてきたのですが、ロッドは自伝で「まったくそんな事実はない」と言っています。確かに先に書いたように交流があるので、「犬猿の仲」は何かのきっかけでマスコミがおもしろおかしく煽ったのが噂で広がったのでしょう。

第二期ジェフベックグループ

〜ソウルフルでマニアに人気のボブテンチ〜

第一期からさらにソウル志向が強まり、モータウンサウンドをヘビーにして奇天烈なベックのギターを載せたような明るいサウンドの第二期ジェフベックグループでは、ウィルソンピケットをテンプレートにしたようなボブテンチという、実にそのサウンドにうってつけのボーカリストが登場しました。

ボブテンチは元々ギタリストでもあり、その後のハミングバードではギターも弾いていました。また、このバンドのベーシスト、クライブチャーマンもモータウンの象徴ジェームスジェマーソンスタイルのベースを弾く人で、ソウル好きのベーシストには人気のある人です。

つまり、乱暴に言えばウィルソンピケットとジェームスジェマーソンがバンドにいるようなもので、第一期とはまたガラッと違った、いわゆるロックとは一線を画す独特のサウンドになっていました。

このバンドのカラーとして、ボブテンチの歌はやはりとても重要な存在で、第二期ジェフベックグループといえばまずボブテンチの歌が想起されます。

しかし、後年のジェフベックの言動からは、第二期ジェフベックグループへの言及はまったくと言って良いほどなく、ベック自身の中ではあまり評価していなかったのでしょうか。当時のベックのインタビューでは、「ボブテンチは、ツアーになれてなくシャイなのでもっとフロントで弾けなければだめだ」的なことを言っていたので、フロントパフォーマーとしての評価が低かったのかも知れません。

しかし、日本のオールドロックファンのジェフベック好きの中では第二期ジェフベックグループが一番好きだという声はよく聞きます。
このバンドのサウンドは、後のインストルメンタルにもつながっているのでベック自身の中でどういう思いがあったのか良く分かりませんね。

実は、第二期ジェフベックグループから次のBBAに移行する時期にメンバーが入れ替わり立ち替わりになっていた時期があり、1週間だけキムミルフォードというボーカリストがボブテンチに変わって歌ったことがあります。
これは、当時のマネージャーが見つけてきた人でミュージカルか何かをやっていたそうです。ということは、やはりベックはボブテンチのボーカルには何らか満足していなかったのでしょうね。しかし、このキムも1週間でクビになり、ボブテンチが再び呼び戻されます。その後、2週間ほどで、Beck Bogart Appiceのトリオになります。

Beck Bogart Appice

正式にBeck Bogart Appiceがデビューするのは1973年だと言うことになっていますが、アルバム制作の前、第二期ジェフベックグループの残りのツアー(1972年秋)ではトリオで演奏しています。ただ、カーマインアピスによると「あの時期はベックバンドのサポートとしての参加」だと言っていました。
このバンドでは、カーマインアピスとティムボガートが歌います。そしてコーラスもしていました。ジェフベックのバンドでコーラスがつくのは初めてです(第二期ジェフベックグループのスタジオ盤ではコーラスがある)。このあたりが、2人がアメリカ人だということでしょうか。アメリカ人は、歌とコーラスは自然発生的に文化としてあるようです。アメリカに住んでいた友人によれば、人が集まれば歌ってコーラスというのは日常風景だそうです。カントリーミュージックの伝統から来ているのかも知れません。カーマインアピスもティムボガートも歌がうまいですが、しかし、ボーカリストと言えるほどの個性やパワーはありませんでした。

本当なら第一期ジェフベックグループの後に結成されていたはずのBeck Bogart Appiceですが、この時期に実現した背景には諸説あり(ベック本人もいろんなことを言っている)、どれが本当なのか良く分かりませんが、強力なボーカルがいなかったこともあり、ある面中途半端なバンドだったのかも知れません。とはいえ、ファンは多いし私もBeck Bogart Appiceで本格的にジェフベックにハマった口です。
歌がと言うより、インプロ性も含めて演奏全体で聞かせるバンドだったのだと思います。時代的にも、ジェフベックの音楽的進化的にも、少しズレていたのかも知れません。

次のインストルメンタル時期の始まりのサウンドが、第二期ジェフベックグループの延長線にあるようなところからすると、強力なボーカルがいたとしても(事実ボールロジャースなどが候補にあがっていたそうです)成功しなかったかもしれません。
ベックの頭の中は、ファンキー路線になりつつあったような気がします。Beck Bogart Appiceの幻のセカンドアルバムの曲を聞いてもかなりファンキーな色合いが強くなっています。

そういうことから考えると、Beck Bogart Appiceでは、ボーカルのことは横に置いて、あるいはもうボーカル探しはやめって感じだったのかもしれません。そういえば、アルバムでもライブでもBlack Cat Mornはジェフベック自身が歌っています。過去にライブで歌ったことないのですが・・・「ボーカルバンドちゃうし、まあ、いいやん」って感じでしょうか(笑)

インスト時代以降。

Blow By Blowで突然インストルメンタルになり、There And Backまでは歌はありません。「FLASH」では、冒頭に書いたジミーホールが登場します。ツアーでもジミーが来ていました。しかし、次のアルバム「Guitar Shop」はインストアルバム。その後10年間オフィシャルアルバムが出ない時期になります。1995年にツアーをしていますがインストでした。

デジタル路線になって。

1999年にアルバム「Who Else!」がでてデジタル路線になり、基本的にインストルメンタルですが、この頃からちょこちょことゲストで女性ボーカルが登場します。クリッシーハインド、イモーゲンヒープ、ジョスストーン、イメルダメイ等実力派ボーカリストが登場します。

アルバム「You Had It Coming」に収められているRollin’ And Tumblin’は、久しぶりにオーガニックなロックっぽい演奏とパワフルなボーカルが聴けて、デジタル路線に食傷気味だった私などは「ベックはこれじゃん!」などと喜びました。

イメルダメイは、レスポールトリビュートなどでもジェフベックと共にレスポール&メリーフォードのHow High The Moonをやったりロカビリーバンドをやったりして活動が長いです。
この人は、なんでも歌えるような感じで、また声色がメリーフォードと非常に似ていて(似せてるというのもあるでしょうが)How High The Moonなどは、まるでメリーフォードが歌っているようで秀逸です。
ジェフベックのアルバム「Emotion And Comotion」でも2曲参加しています。もともとシンガーソングライターだそうですが、ロカビリーバンドをやっていたり、がらっとイメージの違うソロアルバムを出したり多彩な印象です。出身地のアイルランドでは今や超有名だそうです。

全編女性ボーカルのアルバム。

2016年のアルバム「Loud Hailer」では、久しぶりにボーカリストが活躍しています。若い女性ユニット「BONES」とコラボしたこのアルバムで歌っているのはロージーボンズというボーカリスト。ただ、ツアーでは昔の曲もやったのでジミーホールも来ていました。

ジョニーデップ

ジェフベックがなくなる前にリリースしたアルバム「18」では、超有名なハリウッドスタージョニーデップが歌っています。その前から一緒にツアーをしたりしていました。知り合った経緯などは分かるとしても個人的にはデップの歌はあまり好みではありません(笑)ジョニーデップは俳優になる前にロックバンドをやっていたそうです。


ジェフベックの死後に行われたトリビュートライブには、イメルダメイなど縁のあるボーカリストが参加していましたが、やはりトリにでてきたロッドスチュアートが存在感あったし、個人的に一番うれしく涙ちょちょ切れる瞬間でした(笑)