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01 Ambitious
02 Gets Us All In The End
03 Escape
04 People Get Ready
05 Stop, Look And Listen
06 Get Workin’
07 Ecstasy
08 Night After Night
09 You Know, We Know

1985年7月リリース

—–編集盤ボーナストラック
10 Nighthawks
11 Back On The Streets

<メンバー>
Jeff Beck:lead vocals (tracks 6, 8), guitar, producer (tracks 3, 4, 9, 11)
Jimmy Hall:lead vocals (tracks 1, 2, 5, 7, 10), backing vocals
Rod Stewart:lead vocals (track 4)
Karen Lawrence:lead vocals (track 11)[4]
Jan Hammer:Fairlight CMI (track 3)
Tony Hymas:keyboard (track 9), producer (track 9)
Duane Hitchings:keyboard
Robert Sabino:keyboard
Jimmy Bralower:drums
Barry DeSouza:drums
Tony “Thunder” Smith:drums
Jay Burnett:percussion
Doug Wimbish:bass
Tina B:backing vocals
Curtis King:backing vocals
David Simms:backing vocals
Frank Simms:backing vocals
George Simms:backing vocals
David Spinner:backing vocals

ファンには愚作の名高い本作。でも数曲ジェフベックらしいカッコイイのがあります。

There and backから5年、1985年、やっと新作がでるぞ~と喜び勇んだものの、いざ、聴いてみて愕然としました。なんじゃこれは。あのナイルロジャースがプロデュースとくれば、「ちょっと違うかな」と思いつつも、必ずや我々の想像の及ばないものになっているはずと、期待に胸ふくらませていたんですが、ナイルロジャースはただのダンス兄ちゃんでした。流行のリズムパターンにタダタダギンギンのギターが被さっただけ。ジェフベックとしては、かつてないほど、抑揚のない通俗的なサウンドです。そういう曲が、このアルバムのつかみの曲として入っており、またプロモーションでも使われていたので、ま、駄作、といったイメージがあるのですが、実は、ナイルロジャースが関係していない素晴らしい曲もあります。それらには、ロッドとの復縁で話題になったPeople Get Readyなんかもあり、まんざらがっかりでもなかったですね、やっぱり。

分類すると、
1.流行系失敗作=Ambitious/Gets Us All In The End/Stop,Look And Listen/Get Workin’/Ecstasy/Nifht After Night、
2.ベック系成功作=Escape/People Get Ready/You Know,We Knowです。
やっぱり失敗の方が多いです。失敗の中にも、ちょっといいかなと思うものもありますねどね。

There And Backのページでも書きましたが、この頃から(現在でもそうですが)、ベックはインタビューで、しばしば「オーディエンスが求めているもの」と言っています。前作までは、そんなことを言っていませんでしたが、そんなことを言い出したのは、前作でとりあえずやりたかったことをやってしまったため、やるべきことを失い、ベック自身の中に進むべき方向の強烈なイメージがなくなったからだと思います。そんなこともあって、前作から5年もあいてしまったのでしょう。それで、自らの方向性が見いだせないため、オーディエンスの方向性に合わせようとしてしまったのではないでしょうか。

市場(オーディエンス)に合わせてつくる音楽は、小室をはじめとするポップスです。ベックのようなアーチストがそれをやっちゃぁおしまいでしょう。ベックは、常にベックのすることに世間がついていく状態でなければいけません。今までは、常にそうであったし、ベック自身そう思っていたはずです。しかし、この頃には妙に弱気になって「オーディエンスが~」などという始末。さらに、ベック自身、常に革新的でありたいと思っているため、自分を納得させるのも含め(もちろんレコード会社の事情的にも)何か革新的要素が必要だったのだと思います。それがナイルロジャースだったんじゃないでしょうか。
ひょっとしたら、ナイルロジャース自身もあまり興味のあるプロジェクトではなかったかも知れません。だって、本質的な違いがありすぎますよね。ナイルロジャースは、全体としてのグルーブを大切にする音楽、ベックの場合は、一瞬一瞬の緊張感を追求する音楽。間やフレーズの細かいディティールが非常に大切なんです。まあ、アルバムに1~2曲、ナイルロジャースとのコラボレーション!とかなんとか言って鳴り物入りで入っているのは、面白いと思いますが、それをメインにしては、ちょっとしんどくなりますよ。

このアルバムのためには、従来ユニットでほかに録音したものもあったと思うんです。その中には、結構いいのがあったんじゃないかな。でも、Who Else!の時と同じく、「今、また、こんなものを出してもしょうがない」とかで没になったんでしょうが・・・。あるいは、コージーパウエルのTILTに参加したときの「Cat Moves」「Hot Rock」をベックバンドで録り直しても良かったんじゃないかと思いますね。
ともかく、何か中途半端な状態でリリースされたため、収録曲も全体としてまとまりがなく、ベストアルバムのような感じです。実際、ライブでも新しい曲はガンガン弾きまくっているだけでつらいものがありました。

こんなあだ花的なアルバムですが、音楽的方向を見失いながらも、ベックの演奏スタイル自体は、変化し始めています。決定的なのは、この頃から、全くフラットピックを使っていないことです。それによって、フレージングや音なども微妙に、いや結構大きく変化しています。奏法としてベックのキャリアを分けるとしたら、このフラッシュの手前あたりに大きな線が引けます。この奏法の変化によるひとつの成果が次のギターショップで見ることができます。

そういった意味で、このフラッシュは、まだベック自身のアイデアが(あったのか、なかったのか知りませんが)熟成中に出てしまった(出さざるを得なかった)アルバムと言えます。そんなワケだから、中にはEscapeのように新しい輝きをもった曲(この曲はグラミー賞の最優秀インストルメンタル賞か何かをもらった)も入っているんだと思います。People Get Readyは、むか~し(BBA初期)からやっていた曲なので、ロッドとのコラボも含め、話題づくり(プロモーションのための)を狙ったというレコード会社の事情によるものではないでしょうか。で、当初はシングルで考えていたけど、アルバムに曲が足りないし、話題にもなるので「そいつもいれとけ!」てな感じで収録されたのでは・・・。あくまで勝手な想像ですが。だって、あれだけ、全く別世界でしょ。おかしいですよ、おかしい。ついでに言うとアルバムのジャケットもおかしい。変だ、ジェフベックではない。と、私は思います。プロモーションビデオでは、アイバニーズかなんかのギターを弾いていました。珍しい。

*関連記事:FLASHで宝探し。

各曲紹介

●Ambitious
印象的なカッティングで始まりますが、これはベックではないそうです。この曲、始まったとたんに「ベックではないな」と思わせる曲です。サウンドの雰囲気が全然ベックらしくないです。ただ、曲自体の雰囲気はいいので、もっと違う音作りにして、ベックがゲストで入っているっていうことなら、他人の曲としてカッコイイ曲にできたような気がします。しかし、メロディやギターソロで、フィンガーリングとアームを組み合わせたフレージングなど、弾き方などには、新しいスタイルが明確に現れています。

●Gets Us All In The End
これも歌謡曲みたいで、違うなあという感じです。コード進行や曲想自体が、通俗的で、ギターもただただギンギンです。頭のギターがなんか、いきなり疲れてしまいますね私は。曲が終わるとホッとします。

●Escape
始まったとたん、違った雰囲気でオッとさせる曲です。突然カッコイイリフが始まってワクワクさせます。この曲も結構メロディやコード進行等は、歌謡曲っぽい雰囲気を持ちながら、その肝のところで、うまく外してあって独特の雰囲気です。ソロらしいソロがないのですが(ひょっとしたらフェイドアウトした後にあったのかも知れませんが)非常にベックらしい展開で、満足してしまいます。流行のパターンを取り入れながら、当たり前にならない、ダンス風ロックンロールみたいな感じで、ヤンハマーは本当にカッコイイ曲をつくります。この曲があるだけでもこのアルバムの価値があるかも知れません。

●People Get Ready
この曲は、ベックが貨物列車に乗って懐かしい友(ロッドスチュアート)に会いに行くというセピア調のプロモーションビデオで有名です。この頃、さんざん流れていました。牧歌的なイントロで和んでしまいます。こういったカントリーっぽいのは、このちょっと後(GUITAR SHOPの前)ツインズのサウンドトラックでも、ニコレットラーソンのボーカルで、似たような曲をやっています。元々チェットアトキンスなどカントリー系は好きみたいですね。ロッドとは、第一期ジェフベック時代のしこりで犬猿の仲と言われていましたが、実力においてはロッドが最高のボーカリストと評価しているようで、しばしばインタビューで、なぜ歌バンをやらないのかという質問に「ロッドのようなボーカリストって、なかなかいないんだよ」というようなことを答えています。

この録音当時、 1984年のロッドのアルバム「カムフラージュ」への参加などもあり、雑誌には「仲直りした」とか書かれていましたが、ロッドスチュワート自伝「ロッド」によると、実際はそんな感じではなくて、LAで偶然会って「ジェフにこのあと予定がないならスタジオに入らないか?俺のアルバムでも弾いてよ」という感じで録音したようです。(2018.8.18追記)
カーマインアピス曰く、「僕がドラムを叩いていたんだけど、打ち込みに差し替えられた」そうです。契約の関係でしょうか。(2023.11.30追記)

●Stop,Look And Listen
またもや疲れるイントロで始まる曲。ほとんどジェフベックである必要がない曲です。ベックもなんとかアイデアを駆使して弾いているって感じで頑張っていますが、なんか辛い。また、長いんですわ、この曲。

●Get Workin’
この曲は、なんかいいところがあるようでないようで、ベックがボーカルを取っているということが珍しく、不思議な感じの曲ではあります。ベック独特のパーカッシブなギターは聴けますが、なんか曲としてはいまいちと思います。

●Ecstasy
この曲は、ダンス路線ですが、結構イケテます。ベック得意のリズム、得意の間、得意中の得意であるオブリガード的なフラッシュフレーズがバンバンでてきます。全体のグルーブの中でベック独特の表情をころころ変えながらのギターが歌っている感じがします。これ、ライブでやって欲しかったな。

●Nifht After Night
これも結構いいかな。ベックのボーカルです。合間合間に入るギターやソロも完全にベックです。ただ、音の作り方がもうひとつ、ベックの雰囲気にあってないので、なんかゲスト参加した演奏みたいです。でも、これも、ライブで見たかった。

●You Know,We Know
この曲は、ほとんど話題にならなかったし、ライブでも演奏されなかったのですが、私の中では、ESCAPEの次にランクされています。昔NHKでやっていた新日本紀行みたいな雰囲気の、叙情的で壮大な感じが非常に好きです。トニーハイマスは、冨田勲のファンなのではないでしょうか。「新日本紀行のテーマ」の影響を受けているんじゃないかなあなんて思ったりします。美しいメロディーもベックの伸びやかなトーンがいきていますし、後半からのソロも聴きどころですが、バッキングのキイボードが素晴らしい。特に最後の盛り上がって解放されるところがたまりませんね(^^) このセンスもGUIAR SHOPの成功につながっていると思います。エンディングも、クールな外しかたで、まいりましたという感じです。今からでもいいから、ライブでやって欲しい。