2009年に発売された、ジェフベックのある面円熟した時期の演奏が収録された唯一の映像です。ジェフベックの正式な映像は多くないので貴重です。ライブアルバムを出すのを嫌うジェフベックが承認しただけあって、こなれた良い演奏が聴けます。
というのは、晩年は割とにまとまったこなれた演奏が多いですが、ジェフベックという人は、若い頃から演奏のムラが多い人なのです。「ムラが多い」というと雑に演奏するように聞こえますが、そうではなくて、ライブで常に攻めるわけです(笑)攻めた結果、事故ったり不安定になったり、沈没したりするわけですが、その反面、攻めが成功したときの素晴らしさは、沈没を補っても余りある。とんでもないミラクルを起こす人で、そこがジェフベックの大きな魅力の1つでもあります。そういう人なのです。特に若い頃は。
そういう過去からすると、この演奏はとても安定していて聴きやすいです。聴きやすい反面、そういうミラクルもないですが。
演奏の映像以外に、インタビュー映像も収録されていて、このインタビューがなかなか興味深い事を話しています。
先にインタビューを見てから本編を見た方が楽しめるかも知れません。
ロニースコッツというのは、正式名称「ロニー・スコッツ・ジャズ・クラブ」だそうで、1959年にロンドンに開店した200席ほどの要するに小さな老舗のジャズクラブなのです。だから、会場は少し高級感漂う大人の場所という感じです。
ジャズクラブなので、基本ジャズが演奏されるのですが、ロックミュージシャンも出演していて、ジミヘンの最後の演奏はここだそうです。
ジミヘン以外にもピーターグリーンやチャーリーワッツ(この人はもともとジャズですが)、ドリームシアターなどもここでライブアルバムを制作しています。そんな所なのでジェフベックが出演してもおかしくないと言えばおかしくない。しかし、マーシャルでガンガン演奏するような場所ではないようにも思いますが(笑)
その辺、ロニースコッツに出演することになった経緯をDVDに収められているインタビューで冗談交じりに話しています。
Jeff Beck performing this week... live at Ronnie Scott's 1. Beck's Bolero 2. Eternity's Breath 3. Stratus 4. Cause We've Ended As Lovers 5. Behind The Veil 6. You Never Know 7. Nadia 8. Blast From The East 9. Led Boots 10. Angel (Footsteps) 11. People Get Ready with Joss Stone 12. Scatterbrain 13. Goodbye Pork Pie Hat/Brush With The Blues 14. Space Boogie 15. Blanket with Imogen Heap 16. Big Block 17. A Day In The Life 18. Little Brown Bird with Eric Clapton 19. You Need Love with Eric Clapton 20. Rollin' And Tumblin' with Imogen Heap 21. Where Were You Interviews with Jeff Beck and the band members
この演奏は2007年の11月に5日間出演した中から編集されているそうで、多彩なゲストも迎えています。また、客席にジミーペイジやブライアンメイなど大物ミュージシャンが見えて、それだけでもうれしくなります。
メンバーは、ドラムにビニーカリウタ、ベースにタルウィッケンフェルド、キーボードがジェイソンリベロ。天才の誉れ高いタルちゃんは、クラプトンのクロスロードフェスティバルで話題になりました。
ビニーカリウタは2005年の来日時にも一緒に来ました。それからずっとジェフベックバンドのメンバーなので、その面でもジェフベックが安心して演奏を楽しんでいるようにも見えます。
セットリストは基本インストルメンタルで、昔のものが多く、Who Else以降のデジタル路線の曲からは、デジタル的でない曲が選ばれています。2005年頃からこういう路線に変わっています。デジタル路線の最後「JEFF」を出した後のインタビューで「オーガニックなものに帰る」的な事を話していました。また、「JEFF」のすぐ後にBBキングのレストランに出演した時は、」テリーボジオ、トニーハイマスという昔のメンバーで、曲も昔の曲ばかりでした。これはCDになって出ていて、デジタル路線からは脱出したような、やんちゃな(本来のジェフベック的な)演奏を聴くことができます。
そういう時期を経てオーガニック路線に戻って、相応しいドラマーを得て、ジェフベック的にも「やっぱりこれだよね」って感じで演奏を楽しんでいる時期ではないでしょうか。
第一期ジェフベックグループの曲、Beck’s Boleroからスタートするのも2005年頃からよく行っているパターンです。
かつてBBAの頃にビリーコブハムの「Spectrum」をよく聞いていたそうでBlow by Blowにつながったと言われますが、そのビリーコブハムのStrutusを演奏しているところからも、原点回帰的な心情があるのかも知れません。久しぶりにリングモジュレーターなども使っています。
タルちゃんのベースのサドウスキーのロゴがチラッと映りますが、その後の哀しみの恋人達でのタルちゃんのソロが素晴らしいです。小さな手で良くあれだけ弾けるなあと感心します。
ソロの後もジェフベックが楽しそうにしています。
場所が狭いので、カメラが各プレーヤーに近いためか、臨場があり、ジェフベックの手元も良く分かります。
しかし、レッドブーツという曲は、どのライブを聴いてもアルバムの演奏を越えられていないという印象がある。何かノリや勢いが違う。まあ、個人の好みということかも知れないけれど。
ゲストが個人的には、クラプトンが出てきて一緒にやる場面が好きですね〜。2曲収められているけど、クラプトンがなんか普段着で、その辺のオッサンギタリストが呼ばれてでてきたような感じで(笑)面白い。
You Need Loveは、ジェフベックがクラプトンの歌の裏で同じメロディを弾いているが実に味があるのはさすがですね。一緒に歌っているかのようです。
その後のRollin’And Tumblin’がまた良いです。アルバムとちょっと弾き方が違うけど、こういう曲のリフを弾いているのが、とてもノリが良いしカッコ良いなあと思ってしまいます。
なんでしょうねぇ、こういうシンプルな曲こそ、ジェフベックの味が出てくるように思います。
まぁ、人によって良いなと思うところは様々でしょうが。
ジェフベックの安定した演奏がこんなにたくさん見れるのは貴重です。
最後は、あれですね。Where Wrere Youこんな演奏をそもそも誰も考えない。
考えてもやろうと思わない。怖すぎて。それをやってしまうのがジェフベックです。最後、退場するときにベビーパウダーを吹いて戯けてみせる。早く亡くなってしまったのがホントに残念です。(2023.2.12)