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Highways

ジェフベックと言えば、独特なというか奇天烈なというか、個性的なギターソロばかりが注目されがちですがバッキングも当然のように上手いです。
特に第二期ジェフベックグループはモータウン的な楽曲が多いので、歌モノのR&B的な伴奏が多く聞かれて、その点でも同時代のいわゆる「ロック」の楽曲とは趣が異なります。

今でこそ、いろいろな音楽が融合していわゆるロックの音楽でもMajor7や分数コードなど、浮遊系のコードが使われますが、70年代前半のいわゆるロックではあまりなかったと言えます。
とにかくこのバンドは、サウンドのベースがモータウン的なものなので使われるコードもそういうコードや進行が使われていて、ロック的なアプローチではコピーしにくい曲が多いです。
完コピを目指しましたが、良く分からないところもあるので部分的には違っていると思います。また、伴奏部分は本人の演奏はもっとダイナミクスがついています。

ライブで演奏されなかった曲

「Highways」は通称オレンジアルバムの後半クライマックスな場所に収められていて、実にR&B的な響きの曲なのです。私も第二期ジェフベックグループの曲の中では筆頭に好きで、そういうファンも多いように思います。しかし、ブートレグなどを聴く限り、なぜかライブでは一度も演奏されていません。同名のタイトルのブートレグがありましたが、あれは間違いで中身は「You’ve got have a song」です。
このアルバムが発売された当初(1972年春)の評論家の評判が悪く、特に「Highways」はジェフベックの手抜きだなどと書かれたので気を悪くしちゃったのでしょうか。

ジェフベックのバッキングを味わう曲

独断と偏見でこのように思っています。左から聞こえるジェフベックのバッキングが独特であり、かつ要所要所に効果的な音が置かれます。
逆に3回あるソロ部は、特に取り立てるほど凄いものでもなく、おまけにミスったのではないかと思われるような箇所もあり、ソロ部のコード進行が、どちらかと言えばマイナー系の楽曲に多い進行であり、ジェフベックの特異なフレーズが載りにくいというのもあるかも知れません。

テイク1?2?

このレコーディングはテイク1か2かその程度で済まされたのではないかと思われる箇所が何カ所かあります。ソロ部もですが、バッキングも明らかに進行を勘違いして違ったコードを引こうとしている箇所があります。なぜそんなテイクが採用されたのか???と思いますが、その辺が海外の文化なのでしょうね。あるいは、ジェフベックが「もう録り直しはうんざりだ」と言ったのかも知れません。とにかく明らかに間違えているところが3ヶ所あります。

演奏のメリハリ

この曲は、トラックごとにまとめたものが聴けるブートレグ「Work Versiuon」があり、ジェフベックのサイドギターだけを聞くことができます。それから感じるのは、非常にタッチが弱いと言うことです。ピックで軽く撫でるように弾いているところもあり、ここぞというところでがーんと力を入れて弾くという感じです。

コード感

バッキングはただコードを弾いているというのではなく、コードから発展させた動きのある分散やここぞという場面では効果的な短音で締めています。そのあたりは、どれくらい練って弾いているのか、あるいは本当に出たとこ勝負で弾いているのか分かりませんが、実に味のある伴奏です。また、転調や分数コードも多いのでスティービーワンダーの様な浮遊感もある曲です。

サウンド

このレコーディングは、資料によると1972年の1月で、この時期に使っていたのはフランケンストラトとあまり写真では見かけないサンバーストのストラトのはずです。アンプはマーシャルなのか、途中から使い出したSUNなのか。ソロ部の音の歪み方を聴いているとマーシャルではないような気もしますが、5月に出演したBeat Clubではマーシャルを使っていますからマーシャルかも知れません。その時はフランケンストラトを使っていたので、何か事情がない限りフランケンストラトかも知れません。

※動画の下に詳細あり

各セクション詳細

イントロ

3回出てくるソロセクションは、D|D7|D6|Bb|A7sus4¥A7|というようにD音が半音ずつ下がっていきます。こういう進行の場合、Dmで下がっていくのが一般的だと思いますが、ここではF#がなっているのでDメジャーです。ムード的にはDm的なのにDメジャーだという不思議な感じで、この感じが後々のソロ部でもにじみ出てきます。

またこういう場合、一般的には3本の指でDコードを押さえて、7〜6は1弦をミュートして弾かないか解放のまま9th音としてならして弾く場合が多いと思いますが、ここでは1弦のF#が聞こえるので、人差し指で3弦までをセーハして薬指で7〜6を弾いているのではないかと思います。最後のAsus4-Aもsus4をプリングオフしているようです。
もうひとつの考え方では5FのポジジョンでのDから薬指で6弦で7th6thと降りてくるのも考えられます。人差し指で2〜4弦の7Fをセーハし6弦の8Fの7thを弾くフォームはスキャッターブレインでやっているので、同じようにやっているかなとも思いますが、最後のAの音は5Fポジションではないローコードの様な気がします。最後だけローコードに飛ぶのは考えにくいのでやはりDもローコードで弾いているのではないかと思います。

ジェフベックはブルースがルーツのギタリストではないので(ロカビリールーツ)、ブルースやフォークソングの指使いとは異なる独特の運指をします。これは2024年の6月に私の友人がミッドナイトスペシャルにメールして発掘させた1975年出演時の映像でも良く分かります。
「哀しみの恋人達」では指使いも良く見えますが、およそ一般的な運指ではない変な弾き方をしています。これはShe’s A Womanの解説でも書いていますが、こういう変な運指も独特のサウンドを生む一因になっているのだと思います。
だから、「音をなぞっただけではジェフベックのムードにはならない」のだと思います。

バッキングに被ってくるソロもおかしなところがあります。
ソロの後半、4弦Dの開放弦をアームダウンした後、一瞬4弦3フレットをプリングオフして、3弦2フレットのAから始まるフレーズは、一般的には5フレットのポジションで弾くと思いますが、なぜか1〜3フレットのポジションで弾いています。これは最後の3音D-C-AのD-Cをプリングオフしているからです。

5フレットポジションで弾くとこのD-C-Aはプリングオフしにくいく、ピッキングでしか弾けません。またそれをあえてプリングオフする必然性もありません。ただ、ここをローポジションで弾く必然性もないと思いますが、たまたま指がそこに行っちゃったのでしょうか(笑)

ヴァース1

ヴァース2もそうですが、2小節のFコードの頭では1〜3弦のハイポジションのFと和音でアクセントをつけてそのあとすぐにローポジションに降りてきて分散を弾きますが、なかなか難しい部分です。

冒頭にも書いたように1〜2テイクで録ったと思うのでつぎはぎはしていないと思いますが、ローポジションでFの1〜3を弾いた後に6弦からの分散をきれいに弾くのは難しいし、あまり合理的とも思えませんがどうやっているのでしょう。

FのあとはEm7|A7|になりますが、ここはAsusu4|A7といったサウンドですので、Em7の7thは2弦の3Fを弾く必要があります。
その後のCm7はここだけ4度転調しているのではないかと思います。そして次のC/Dの分数コードはGmのドミナントなのでまた転調。この辺はとても浮遊感がありモータウンなサウンドです。いわゆるロックの楽曲とは違いますね。

転調してGmは4弦のG-Fで表情をつけています。次も転調してBbm7-Eb13のはAbの2-5。で、Ab に行くのかと思いきや転調してFに戻ります(2回目でAbに行く)。

ローポジションのFは6度和音を短い音符で弾きます。この辺りはロカビリー的でピックと指で細かくミュートしながら弾いてさらに分散を弾くという実に細かい技を詰め込んでいます。2小節の間にこんなに細かいことをするギタリストがいるでしょうか。そして再度Em7-A7-Cm7-C/Dで再び浮遊感。次のGm-Bm7はコードを弾かずにコードの音を使ったフレーズで移動しています。

その次、Eb13の次はトニックのAbMaijor7に進行しますが、ここでMaijor7の音を効果的に使った如何にもモータウン的なムードを醸し出しており、この曲の重要なポイントにもなっています。実に効果的ですね。次のC-Dは、ここはC/Dを分解して弾いているのだと思いますがまたここだけ転調しています。

さらに転調してFのキイに戻ってきて、ベースはG-A-Bb-B-Cとドミナントまで進行しますが、それと対比させるようにベックはF-Eを繰り返すフレーズを続け、最後のドミナントのところでチョーキングダウンして2弦13FのCを弾きます。このCが短音なのにとても効果的で上手いなぁと思います。感覚的にやっているのでしょうか。全音符で伸びているバックにCの短音が実に良くハマっています。Jodyにも似たようなところがあります。

次はベースがBb-A-Gと降りてくるのに弾いているのかかすっているのか分からない程度の音で合わせてユニゾンでBb/C(Fのドミナント)で1回目のヴァースが終わりEm7-A7のセクションを経て2回目のソロ部というかヴァース2のアプローチになります。

ソロ部2

伴奏はDから下がっていくのですが、最後はA7ではなくG/Aの分数コードです。動画では分数コードをギターで弾いていますが、ベックは6弦は弾かずにベースに任せて、5弦から上で単純にGコード(G/Aの時)を弾いているのかも知れません。そのまま2フレット下がるセクションがくっついています。アームで微妙にビブラートをかけているのもカッコイイです。この後、ピアノだけになるセクションも良いですよね。この曲のチャームポイントでもあると思います。

ソロはまた、クセのあるソロを弾いています。クセはありますが、ベックにはあまり見られないクセと言ったらいいのか、冒頭に1か2テイクと書きましたが、出たとこ勝負で弾いて、行きがかり上強引にまとめた的な雑さ(ジェフベックにありがち)と「それ間違えたんじゃないの?」と思ってしまう音やいろんな要素がごちゃごちゃ混じっていて、リズムも取りづらく、その辺からも1テイクで弾いておしまいってしたのではないかという、ある面未消化、不完全な感じのソロです(笑)コピーするのが大変です。

冒頭は10Fのポジションで、7th音を一緒に弾くどのジャンルでもよくあるフレーズ。次のフレーズはベックがよく使っていた1拍を5等分したフレーズを組合わせるやつ。次からはもう感覚的に弾いているのでちゃんとしたリズムというよりリズム無視でフリーテンポで弾いているという感じです。ブルースなどで、感極まったときにありがちな感じです、ジェフベックって意外とこういう弾き方をするのは少ないのです。

その後、10Fのポジションに戻って弾き始めますが、F#(3度の音)で始まり、中間でもいわゆるメジャーキイで使われる典型的なフレーズが出てきます。間違いではないのですが冒頭にも書いたようにこの進行のムードがDm的なので、なんとなく個人的には若干の違和感があったりします。その後はたたみかけるようにというか、無理矢理つじつまを合わせるようにピアノだけのセクションへ。

ヴァース2

Fの頭はやはりハイポジションで始まりローポジションでの分散。次のGmは小指を伸ばして2弦9thの音を弾いて3弦の短3度との半音を分散的に響かせたフレーズ。これはこの時期気に入っていたのか、BBCラジオのライブ(有名なブートレグ)のDefinitely Maybのバッキングでもやっています。

そしてBb-E13-FでこのFではリズムの刻み方がベック独特のパターンです。注目すべきはこの後で、Em7-A7-Cm7-C/Dの後、もう1回Gmに行ってBb-E13-Amajor7に行かないといけないのですが、ジェフベックは完全に間違えていて、G-A-Bb-B-Cと上がっていくところのフレーズを弾こうとします。少し弾いて間違いに気付きあわててGmを6弦からなでる(笑)よくこんなテイクをOKにしたなぁと言う感じです。目立たないから良いだろうってことでしょうかね。

気を取りなおしてBb-E13-Amajor7-C/Dに行きますが、コードを弾いた後にアームで微妙にビブラートをかけるのが良い味です。こういうのはロカビリーの感覚なのでしょうか。
G-A-Bb-B-Cのところは、1弦Fと5弦F-Eを同時に弾いています。こういうのもロカビリー的なのかも。

ソロ部3〜エンディング

伴奏はDから下がっていくのですが、最後なので回数が多く、最後はおそらく5Fのポジションに移って7thをかきからしています。
ピックでギュ〜〜〜ンとやった後は、ベースに合わせて大人しくDとBbを弾いていますが、これがまた適当な弾き方で(笑)その辺もジェフベックらしいと言うか、それが表情になり味になっているという感じなのでしょう。最後の方、フェードアウトする直前ではで分散を弾いていますがこの動画ではやっていません。

ソロは、10Fポジションでなんとなくネタ尽きたーという感じのアイデアのない感じで始まりますが(笑)この後のフレーズ展開もあまり当時のジェフベックらしくない有り体な感じ。ただし、またF#の音が出てきています。この辺は当時の手癖なのだと思いますが、その後も5弦から上がっていくフレーズもベックは余りやらないフレーズ。

そして5Fでのオクターブ奏法の頭で1音下がっています。5フレット目指して行ったけど半音間違えて戻したという感じです。意図的に半音下から上がったというのではないでしょうね。この辺も1テイクで済ませた感が大きいです。最後はお得意の4分音符5等分フレーズを詰め込んでピックでギュ〜ン。


 

 とても好きな曲なので、ライブ演奏を聴きたかったです。しかし、どういうわけかライブでは1度も演奏されていない。ジェフベックの独特で味のあるバッキングは、特に歌モノで聴かれました。Threre And Back以降に歌モノもやるようになり、そういう時のバッキングもとてもカッコよかったです。

独特のリズムの切り方やオブリガード、そして絶妙の歪み具合の音色。個性的なソロだけでなく、伴奏も上手かったのです。晩年にジミーホールが歌うブルースの伴奏をしていた時も二度と同じ事をやらないというか、手替え品替えいろいろなパターンの伴奏を繰り出すのは聞いていて楽しいし引き出しやアイデアの多さに驚きました。

そんな、ジェフベックの伴奏を味わうHighwaysでした。本物と聞き比べていただくと上記に記した意味やマインドを分かっていただけるかも知れません。