ピック弾きと、指弾きについて。

 ジェフベックは、アルバム「FLASH」あたりから指弾き、つまりフラットピックを使わずに弾くという奏法に切り替えました。理由については「ピックを介するより、直接弦に触れることでより表現力が得られる」というようなことを言っていたと思います。それ以来、最新アルバム「JEFF」まで、セッションを含めてずっと指弾きです。ただ、ピック時代でも、特にトリッキーなフレーズなどでは、かなり初期から「ピックを口にくわえて指だけで弾く」、あるいは「フラットピックと残り3本の指を使って弾く」(こちらは非常に多い)ということをしていました。また、ひとくちに指弾きといってもだんだん進化しており、FLASHの頃と比べるとコード弾き、音色などにバリエーションが増えているところがあります。

 それじゃ、ピック弾きに比べて指弾きに変えてから表現力が広がったのか?私は、NOだと思っています。
 指弾きは、確かにアーミングの多彩さやピックを持たないからこそ弾けるフレーズというものもあるし、親指の腹などでの微妙なタッチのコントロールにより、表情豊かになった部分はありますが、ピックを捨てて失われたものも結構あると思います。

 まず、スピード。ジェフベックの瞬間芸的なフレージングのスリリングな面は、そのピッキングのスピードとタイミングにあります。このスピードは、単にイングヴェイのように速いというのではなく、独特の素早いたたみかけというか、主にタイミングの絶妙さです。
 指弾きでも速いフレーズは弾きますが、かなり単純なフレーズです。ピック時代の方がフレーズが複雑で、フレーズのメロディと微妙なタイミングの組み合わせによる、誰にも弾けないフレーズ。しかし、複雑なのにフレーズ全体としての粒が際だったひと揃えと言いましょうか、キャッチーと言いましょうか、メロディもさることながら、微妙にタイミングをずらしたり、グリッサンドを入れたり、ウィットに富んでスリリングなフレーズ。ジェフベックの印象深いフレーズの多くは、このタイプだと思いますが、これらの根底にはフラットピックによるスピードがあるのではないでしょうか。指弾きになってからはそういうフレーズは極めて少なくなりました。
 2つ目は、タッチ。タッチなら指弾きの方がずっとあるだろうと一瞬思いますが、ジェフベックは、ピック時代でも実に多彩なトーンを出しています。タッチを弱く強くというのはもちろん、弦への当て方を変えたり弾く場所を変えたり、決して単調なタッチではありません。また、コード弾きなどではやはりピックの方が多彩です。「本人も二度とできないような偶発性の高い絶妙なカッティング」やBBA時代のファンキーなのに破壊力のあるカッティングなど、指弾きでは物理的に不可能なものもあります。ジェフズブギーなどもそうですね。あのユニークなフレーズやコード弾きのノリの良さは、ピックならではのものだと思います。

 このスピードとタッチ。実は、ジェフベックのギターサウンドの命と言っても良いくらいの重要な要素です。ですので、指弾きは、新たに得たものもあるが失ったものもあると思いますね。人間の指や爪とプラスチックでできたフラットピックを比べたら、そりゃピックの方が堅いです。それがための弾きやすさもあるでしょう。その物理的な差が、サウンド全体というか、フレーズ単位でのエッジの立ち方にも影響してきていると思います。

 とはいえ指弾きによってジェフベック独特の強引なフレーズやフレーズとは言えないような音、微妙なトーンなど、以前には聴けなかった世界もあります。ま、どちらが良いかということではなく、サウンドの傾向が変わったということだと思います。

 なので、いいのですが、私としては昔のようなエッジのフレーズ、剽軽ですっとんきょうなピックならではのフレーズも聴きたいというのが本音ですね。特に第二期やBBAの頃の音を聞き返しているとそう思ってしまいます。
 最近のギターの音づくりも、やはり指弾きに合わせて調整しているように思います、
当たり前でしょうが。かなり野太いヘビーな音になっていますね。指でもあのような音が出るようにピックアップやボディーがチューニングされている感じです。あのセッティングでピックで弾くとヘビーすぎて厳しいんじゃないかと言う気がしますが、どうなんでしょうね。
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 そういえば、先日、楽器店で小物を物色していたらジェフベックという言葉が耳に入ってきたので、声の方向を見てみると店員さんと年の頃なら30代半ばのオヤジといった感じのお客さんがピックアップを持って何やらやりとりをしていました。
 当然、ベックマニアの私としては、さりげなく耳をダンボにして聞いていたところ、お客さんは店員さんに詰め寄るように「このピックアップでジェフベックの音が出せるか」と聞いていました。で、店員も「そう単純に言われてもナー」というような困惑した顔で、いろいろ応対していましたが、「今、ジェフベックは指で弾いているのでそういうこともかなり音に影響していますよ」と言ったところ、お客さんは「えっ、指で弾いているんですか?!」とわずかに凍りついていました。その後、ストップモーションが溶けたように「そーなんですか、、、、、」と、気を取り直して、またピックアップの話に戻っていましたが、意外と知られていないのかも知れませんね指弾き、マニア以外には(^o^;)。
 その後、そのピックアップをつけるギターによっても音が違うとか、ボディの材質によってとか、35万円のギターにつけるのと、5万円のギターにつけるのでも音が違うとか(そりゃそうだ)かなりの時間もんちゃくが続いていまして、それを聞いていると耐えられなくなって、思わずそこに割り込んでいって、店員を押しのけ「そりゃどうしたってだめですよ。まず、タッチから練習しなきゃ!」て、その人に言ってやりそうになりましたが、「チャック!チャック!」と自らに言いきかせ、何もなかったように楽器店を後にしました。人間やたらをいらぬお節介をするものではありませんし、真実を話して店の営業妨害になってもいけません。
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 話がそれましたが、指弾きとピック弾き。2004年6月のロンドンのライブで、ヤンハマーなど懐かしいメンバーで懐かしい曲を演奏しているのにイマイチしっくり来なかったのは、ジェフベックのマインドだけでなく、こういった要素も絡んでいるのではないかと思います。実は、このライブの中で珍しくフラットピックを使って演奏した曲がありました。
 ロンウッドを迎えてファンキーなインストルメンタルというか、バッキングばかりというか、セッションのような適当な(でも、とてもかっこいい)曲を演奏していましたが、これはフラットピックで弾いていましたね。なんでだろう?ロックっぽい曲だったからかな?ロンウッドが来て、昔の空気に戻ったからなのか、ロンウッドのノリに合わせたのか、ま、理由は分かりませんが、私は妙に気になりました

 前回の「JEFF」の後に「もうデジタルでの録音はこれで終わりにする。次からは、昔ながらの労音方式でやる」と言っていたことに関係あるのでしょうか。ひょっとしたら、次のアルバムでは、フラットピックを使った昔のタイプのジェフベックフレーズが聴けるのかも知れませんねぇ。Yahoo!!!!!!!!!!!!!!!

2004.9.20