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Guitar Shop

(Jeff Beck’s Guitar Shop)

01 Guitar Shop
02 Savoy
03 Behind The Veil
04 Big Block
05 Where Were You
06 Stand On It
07 A Day In The House
08 Two Rivers
09 Sling Shot

1989年10月リリース

<メンバー>
Jeff Beck:guitar, production
Tony Hymas:keyboard (including bassline),[1] synthesizer, production
Terry Bozzio:drums, percussion, spoken vocals, production

前作でのがっかりを月まで吹き飛ばしてくれる”改心作”!?

革新と迫真、感動と賛同が渦巻き、以前とは少し奏法や演奏スタイルも変わったけれど、そこに新たな方向のジェフベックがいます。

フラッシュで少し反省したのか後悔したのか(当時のインタビューからもそう感じられる)、3年後に根性の入った意欲作を発表しました。いや~、このアルバムには私は驚喜しましたです。

数々の革新があるのですが、まず、ベーシストがいない(レコーディングではキーボードでベースを弾いている)。どういう理由でベースがいないのかという真意は、インタビューを読んでもあまり分かりませんでしたが、適当な(ベックのわがままについていける)プレイヤーがいなかったのではないでしょうか。しかし、そのベースレスを埋めてなお余るくらいのドラムが入っていました。

テリーボジオ、すごいですね。来日公演ではあのバスドラに圧倒されてしまいました。何でもミックジャガーのプロモビデオ撮りの時に知り合ったらしいですが、これまでのベックバンドのドラムとは異なるテイストです。ダイナミックというか、地の底から音が鳴るというか、それがまたベックのギターサウンドに新しい刺激を与えているのは間違いありません。

テリーボジオという人は、UKやフランクザッパ(神奈川に「フランク雑貨」という洒落た店があるそうですね)のバンドで活躍していた人で、ドラムの叩き方が普通じゃないですね。どういうワケかミッシングパーソンズ(当時の奥さんがボーカル)というポップバンドなんかもやっていたりしましたが、ベックとは先の縁で映画「ツインズ」のサントラ(&ちょい出演)なども一緒にやっております。

とにかく、このアルバムは、テリーボジオのドラムとトニーハイマスの独特の和音世界によって従来なかったジェフベックサウンドになっています。タイトルは、Jeff Beck With~になっていますが、Withじゃないですね。Beck,Hymas&Bozioでもいいくらいです。

2つめの革新は、SE(sound effect)を使っていることです。過去にブルースデラックスみたいに聴衆のSEをかぶせてライブっぽく聴かせる(今回のSavoyでもやってる)のはありましたが、曲の一部として使ったのは初めてです。ギター以外のギミック嫌いのベックのアルバムとしては、珍しい。少し驚きを覚えました。

3つめの革新は、トレモロアームの新しい奏法が出てきたことです。正確には、このちょっと前の「ツインズ」のサントラの「トレインケプトアローリン」で披露していますが、要は、ノートをヒットした後に半音~1音さげて、スライドバーを使っているような効果をアームでやっているのです。これを1音だけでやるのではなく、フレーズの流れの中で連続してやります。これはかなり難しい。それにピックを使わないからできる奏法です。以後この奏法はベック奏法の定番となっています。

4つめの革新は、楽曲の傾向です。私はかなり実験的な感じがしたのですが、今回のアルバムには、イントロ、構想、サビ、エンディングなど、一般的な曲にある展開が感じられない曲があります。Guitar Shopなどは、ずっとイントロのままみたいですし、Where were youは、エンディングらしいものがなく、途中で終わってしまう感じだし。その他にも個性的な楽曲がそろっていて充実したアルバムです。

ベックもしばらく迷える子羊状態でしたが、ちょっと元気をとりもどしたという感じです。また、ゼアアンドバックまでは、ジャズやフュージョンの臭いが濃かったですが、ここに来て、明らかにロックのインストアルバムという感じになりました。また、ベースがいないこともあって、全体的にバランス良く埋まったというより、ちょっと足りないくらいの間引き気味のサウンドが独特の空間を作り出していると思います。

今回の目玉はテリーボジオかも知れませんが、トニーハイマスのつくりだす、広がりのあるハーモニー(コード)もアルバムに大きく貢献しています。今回のアルバムからは、「Stand On It 」が、ホンダ・アコードのTVCMに使われていました。CM制作の現場に好きな方がいらっしゃったんでしょうね。

しかし、このアルバムから1999年の「Who Else!」まで、10年間オフィシャルアルバムが出ないという沈黙の時期になります。

各曲紹介

●Guitar Shop
始まりから何やらワケの分からない始まり方で、ワクワクします。イントロ?のギターも乾いたパーカッシブなサウンドで、まさにジェフベックです。テーマメロディもジェフベックらしいトレモロアームをフレーズに取り込んだもの。その後、人の声にのって効果音的なギターが続きますが、その中でレスポールのハウハイザムーンのフレーズが出てきます。おしまいの方も、フラッシュの時とは違ったベックらしい間のある弾きまくりで、うれしくなってしまいます。

●Savoy
始まったとたんにスリルのある感じで好きになってしまいます。リフもいかにもって感じだし、全編にわたって、アレンジがこれでもかというくらいにカッコイイ。ちょっと古いジャズのテイストをアバンギャルドにアレンジした感じでしょうか。ピアノがめっちゃかっこいいです。テーマの次の展開のところのコード進行の雰囲気は、ストーンズの「Start Me Up」に似ていませんか?ここ独特ですね。ソロの頭は、ピッキングハーモニックスをカッコよく使っています。ライブでは、アームダウンも加えて、さらにスリリングになってました。このソロで、アームを使ったスライドバーのような効果が聴けます。この曲は、従来からのベックらしいにも関わらず、非常に新鮮な感じのする曲です。

●Behind The Veil
この曲も素晴らしい。超目玉曲が頭から3曲も続きます。この曲は、まずテリーボジオのダイナミックで繊細なドラムを楽しみたい。何度聞いてもこのドラミングは、すごい。ドラムでよくここまでニュアンスだすなぁ~と感心します。ミュート気味で弾くベックのギターも、時にストイックに、時に伸びやかに、乾いて暑いジャマイカの夕焼けに飛んで響く感じです。また、トニーハイマスのキイボードが、とてもいい夕焼けをつくっています。

●Big Block
打って変わって、ストレートなヘヴィロックです。パーカッシブなギターワークで、質量感のある中にもずんずん前に進んでいくようなサウンド。テーマは、微妙なチョーキングやアームダウンで粘っこい感じが快感です。ソロもうれしいフレーズの連続。ギンギンに盛り上がって、ブレークが超カッコイイ。この曲はジェフベック本人もかなりお気に入りだったようで晩年もよく演奏していました。

●Where Were You
この曲も、話題曲のひとつです。ピュアなハーモニックス音をトレモロアームを使って微妙な音程コントロールを行い、まるで人の声のような独特のサウンドを出しています。元々ベックのギターは、音色が澄んでいるのでこういうサウンドがだせるんですね。後半のディストーションのかかったところも微妙なコントロールとロピートエコーで、感動的な情感を出しています。ベックのトレモロアームは、フロイトローズとかではなく、結構普通のユニットですので、これは調整が大変でしょうね。でもフロイトローズタイプでは、じゃまになるかも知れません。この曲の終わり方は中途半端で素敵です。

●Stand On It
この曲は、ホンダアコードのCMで飽きるほど流れました。サイドギターの粘っこいサウンドがロックですね。ちょっと昔のプログレっぽいサウンドがいいです。

●Day In The House
今までのベックにないパターンの曲です。フラッシュまがいのダンスっぽい曲ですが、ペラペラのサイドギターやボジオのドラムが絶妙の迫力あるグルーブを出しています。こういう組立にすれば、ベックのダンスサウンドとしてカッコよくまとまるんです。ソロもくねくねとしたベックしか考えられないものです。ライブでも非常にカッコよかったですね、この曲。

●Two Rivers
結構普通のさわやかサウンドみたいに聴こえるんですが、独特の展開をします。ギターのハーモニクスの応酬ですが、普通はやらない難しいポジションでうまいこと音を出します。その背景で一本抜けたようなシンプルなキーボードが、非常に良い空間と湿度を作っています。ギターもいいですが、空間を楽しむ、そんな感じで聴きました。

●Sling Shot
一瞬イージーな感じのするパワーロック。ボジオのドラムが迫力です。アームでうにゃうにゃさせたリフもカッコイイ。一般的にこういう曲はベースラインがばんばん出てきて、グルーブを作るんでしょうが、それがないので、ちょっと変わった感じに聴こえます。


2023.12/2追記