1980年 非常に安定し、まとまりのあったThere And Back Tour

There And Backというアルバムは、インスト路線の集大成的であり、ひとつの区切りとなっています。そのアルバムと同じメンバー(ヤンハマー以外)で、来日。私は大阪府立体育館とフェスティバルホールの2公演に行ったのですが、久しぶりにベックにしては、まとまった、バンドらしい演奏でした。
特にサイモンフィリップスの活躍には、目を見張るものがありました。ベックとのツアーも、アルバムも2回目、もう息もばっちりです。前回はセッション的な色が濃かったですが、この時は、もうメンバーの一員、ベックの重要な相棒という感じでした。実際アルバムでもスペースブギーなんかは、サイモン君のアイデアでつくられたようですし、この時期のベック音楽の重要な部分を担っていたと思います。ベースのモーフォスターともぴったりでした。
来日当時、彼は24~5才くらいだったのでしょうか。もう、ドラムをたたいている次元が他のミュージシャンと違う(特に日本の)と感じましたね。本当に怪物。血が違うのでしょうか(個人的には、これは日本人がやっても、かないっこないと思いました)。基本的なリズムのグルーブやリードはもちろん、ベックや他のメンバーの演奏に合わせて縦横無尽にフィルを入れて、演奏に華を与えるんですが、これがすごい。もう小気味イイというか、ニヤニヤの連続です。サイモン君にとっては、バスドラもタムの一環というところがあるので、ロールの最後がバスドラまでいったりしますし、バスドラの瞬間ロールをわずかなフィルに突然入れたりします。そのパターンとグルーブの豊富なこと。どちらかと言えば、クセのある方ではなく、非常に優等生的、教科書的なドラミングなのですが、あそこまで技術と感性が高いとそれが個性になっています。ただし、世界のドラマーですから、彼独特のリズム感がありますし、それが個性の土台になっているにはもちろんです。そう、独特の間をつくるんですこの人は。それが、またベックのギターによくあう。ほかほかでツヤツヤの白飯みたいなもんですね。どんな漬け物をもってきてもおいしいし、おいしい漬け物があれば、もうそれは、ほとんど病みつきになってしまいます。そういう柔軟で懐の深いドラムです。だから、セッションマンとして人気があったのかも知れません。スティーブルカサー、TOTO、The Who、ジューダスプリースト、ゲイリームーア、マイケルシェンカー、トレバーラビン、フィルマンザネラ・・・どんなギタリストがのっかっても、独特の心地よさは失われません。そうです、サイモンフィリップスは、上等な白飯。ロック界のコシヒカリ。確かにドラムだけ聴いてもおいしい部分があります。それに独特のウィットがあります。だからドラムソロの楽しいです。このウィットの感覚なんかもベックと良くあっている。まあ、なんせ「ボク」みたいな顔して叩くわ叩くわ、アルバムでもすごさはありますが、縦横無尽のライブではその威力がより発揮されます。とまあ、私としてはベタボレなのです。Who Else!や1999年春のツアーなんかを聴くと、ドラムがサイモン君だったら・・・と切に思ってしまいます。
ベースのモーフォスターも詳しくは知らないのですが、相当な人ですね。ベースのトーンが実にいい堅さで、さぬきうどんか、ナタデココか、こりこりとしたいい歯ごたえのベースです。いいドライブ感をだしています。堅実でシャープで。風貌も相まってちょっとティムボガートとイメージがだぶりました。
キーボードは、トニーハイマス。アルバムでもトニーの世界が大きく反映されています。これまた独特のハーモニーで、ヤンハマーやマックスミドルトンとはまた違った魅力があります。El BecoやSpace Boogieなど、あのスペイシーな広がりは、トニーハイマスの組み立てるハーモニーだと思います。
さて、そんな強力なメンバーにサポートされて、ベックは今までになく安心してプレイしている感じがしました。
ステージは、いつもの通り超シンプルですが、アルバムのイメージにあった宇宙っぽい演出。といっても真っ黒な中に豆電球のようなものがチカチカついているだけで、高校の文化祭レベルと言われても言い返す言葉がないようなものでした。

頭は、アルバムと同じくStar Cycle。この曲は、前回のツアーで初めて披露されたものですが、ここで演奏スタイルが確立されました。前半は、There And Backアルバムからの曲がつづき、後半は昔の曲が混ざってきます。スペースブギーなんかは、ちょっとベック自身がついていくのがやっとという感じがありました。府立体育館の時は開場直前までスペースブギーをリハーサルする音が聴こえていました。フリーウェイジャムではキーボードソロのリズムがファンクになってちょっと違ったノリで良かったです。ダイヤモンドダストは、もう非常に美しい。スキャッターブレインから長い長いドラムソロですが、リズムボックスやオクタバンなどを使いながら多彩なドラムソロで、ファンの私としては全く飽きず、もっとやって欲しいくらいでした(ミックジャガーと来日したときは、多くの人が「あの長いドラムソロはいらない」と思っていたようですが、ま、人はいろいろですな)。フェスティバルでは、アンコールでユーネバーノウをやったのですが、アルバムではシンセで弾いているイントロをベースでやりまして、これが非常にグッドでした。モーフォスターは、その後の活躍を聞きませんが、またベックのサポートをして欲しいベーシストです。府立体育館では、途中でシーズアウーマンをちょっとだけやり、場内がわきました。最初にも書いたとおり、全体的にとてもまとまって安定した演奏でしたが、それだけにベックにすれば「もういい」という感じだったんでしょうね。この後、音楽的に迷走状態に入り、ジェフベック初の駄作(アルバムとして)「FLASH」へと続きます。


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