Who Else!

なんと10年ぶりに、やっと出たニューアルバム
ああそれなのに、それなのに・・・。


 延期、延期の末にやっと発売されたニューアルバム。雑誌でも絶賛。期待しました。でも、私、最初はがっかりしたです、正直言って。しかし、聴いている内にちょっとずつ良さがにじみでてくる気がしています。

 サウンド的には「フランキーズハウス」に近いものを感じました。前作「Guiter Shop」と比べるとより透明感や宇宙的な広がりは増している感じですね。今回は、ドラマーの影響が少ないこともあり、より一層トニーハイマス色が強くなっています。やはりジェフベックは、自分の世界はギターの演奏であり、それをどんなバックグランドで鳴らすかという点に非常に神経を使っているのではないかと思います。

 しかし、アルバムをつくったスタンスとしては、何かのアイデアを練って作り上げたひとつの作品というよりは、「現在のジェフベックのいくつかを集めた」というようなものだと感じました。だから、これが今のジェフベックのすべてではないような気がするんですが。急に全く違うとてもファンキーなセッションを始めそうでもあり、何か予想の付かない組合せも本当は考えていたんじゃないかと思います。そういう意味で、ライブアルバムでも良かったんじゃないかという感じです。

 GUITAR SHOPの頃から感じていましたが、改めて思ったのは、昔(20年くらい前)と比べるとギターのテイストが非常にニュートラルでピュアになったと思います。タイトル通り、まさにあのギターはジェフベック以外の何者でもない。何かを彷彿とさせない。まさにジェフベック。そういう意味では、決してファンの期待を裏切ってはいないと思います。

 それに、54歳のおじいの弾くギターとは思えないシャープさには感動します。若手でもこれだけエネルギーとスピード感にあふれ、縦横無尽にフレージングするしなやかさにあふれたギターを弾ける人はいないでしょう。

しかし・・・・

 私は、正直言ってがっかりしました。私の周りの人は2種類、ちょっと戸惑っている組(期待はずれを含む)と絶賛組です。どうやら、昔からのベックファンほど前者のようです。しかし、それは、期待が大きすぎたのかも知れませんね。

 がっかりしたのは、単に方向性が妙に未来っぽいからということではなく、やはりベックの魅力が十分に発揮されていないと言うことです。具体的には、ベックのギターを魅力的に鳴らす環境が不足している(要素が欠けている)と思います。

 ひょっとしたら私はノスタルジックなベック像を求めていて本人はもっと先へ行っているのだろうかと思ったりもします(そういう面もありますが)が、やっぱり何か足りないと思うのです。

 ジェフベックのギターの最大の魅力は、ドラムやボーカルなど他のインスルメントと絡みながらの独特のフレージングです。ベックのギターには、ベックがインスパイアできる他の演奏者が必要なのです。特にボーカルバンドをやめてからは、ドラムが重要です。今回のアルバムは、打ち込みが多く、ベックを刺激しません。

 また、ベック(ギタリストは往々にしてそうですが)のギターは跳ねたリズムで本領を発揮します。元々ファンキーなブラックミュージックが好きなベックのギターには、ファンキーなリズムの「間」にうまく絡むフレーズがお得意です。第二期やブローバイブローあたりがベックギターの核の部分だと思います。今回のアルバムは、本当にこの手のリズムを持った曲が無く、どちらかと言えば跳ねないものがほとんどです。
 テクノみたいな曲は、それはそれでかっこいいのですが、もっとジェフベックとしての昇華の仕方があるんじゃないかと思います。なんか未消化だという気がします。 
 要するに、バックとベックが分かれている。カラオケをバックにギターを弾いているような感じさえします。なんか、トニーハイマスバンドにベックがゲスト出演しているみたいです。

 これは想像ですが、テリーボジオやルカサーたちとさんざん録音したものの中には結構いいのがいっぱいあったと思うのです。しかし、聴いてみて、「いいけど、これって昔のマンマじゃん、今、アルバムとして出す必要あんの?」なんて話になって急遽リセット。
 で、時間もないから、ライブアルバムにしようとツアーの音を聞き直したけれど、総合的に考えるとイマイチだ。で、もう一回リセット。
 もっと、未来をみたものの方がいいべなあ、なんて言いながらベックはもう面倒になっていて、トニーハイマスに「なんかつくってよ、その上にギターのっけるからさ・・・」なんて、ちょいちょいと録音。「ん〜まだ曲が足んね〜、そうだヤンハマーくんだ、ライブだ」なんて感じでアルバムができあがったのではないでしょうか。あくまで想像ですが。

 そんなに焦る理由があったかどうかは知りませんが、練りに練ったという感じの音ではないという感じがします。そういう意味では前作(といっても10年前)Guitar Shopの方が練ってあったし、発見と感動の連続でした。Guitar Shopには、ベックのギターをかっこよく鳴らす環境がありました。THERE AND BACKにもありました。FLASHには、ちょっと欠けていました。やっぱり、リズムだ。

 ひょっとしたら、テリーボジオやルカサーたちと録音した没テイクの中に私が望むものがいっぱいあったんじゃないかと思います。べつに打ち込みが悪いって言うんじゃないんです。「ESCAPE」なんかも打ち込みでしょ。それに「STAR CYCLE」なんかヤンハマーのドラムイマイチですもん。だけど、カッコイイじゃないですか。やっぱり今回のは、リズムと楽曲がもうひとつなんじゃないでしょうか。

 いやあ、本当にGUITAR SHOP以降、ポールロジャースやジミヘンのトリビュート、ジョンマクラフリンなどのアルバムでの演奏の方がずっと感動がありました。特にポールロジャースのは、これぞベックブルースギターだし、ジミヘンのやつはもう他の参加者の誰よりもハードでエネルギッシュで、度肝をぬく演奏でした。
 最近のブートレグやビデオなんかを見ていると今回のアルバム、わからなくはないですが、それだからこそライブでよかったんじゃないかとも思います。
 音楽の方向性は同じでももっと他のやり方があったんじゃないでしょうか。
 それに個人的には、ベックの持ち味であるファンキーなところを聴かせて欲しかったですね。今回のこれは黒人のイマ的解釈なんでしょうか。
 今回のアルバム、聴くとともに味わいが生まれてくるのかも知れませんが、雑誌に書いてあるように「10年聴きつづけられる」ようなものかどうかは疑問です。
 案外来年くらいに、突然またニューアルバムが出たりなんてことないでしょうか・・・。
 次は、もっとまとまったものでねぇ。

 さて、その後聴いている内にちょっとずつ良さがにじみでてきています。単調だと思った曲でも真剣に聴くと微妙なニュアンスがあります。これ、大音量でがっぷり4つに組んで聴かないと良さが分からないアルバムなんじゃないでしょうか(ちなみにジェフベックのアルバムは、大音量で聴くと発見がいくつもあります)。
ただ、何かが足りないのはかわりませんが。

 そんな私ですが、だんだん好きになっていくのは・・・

1.あばたもえくぼのファン心理か、

2.無理矢理好きになろうとしているファン魂か、

3.聴きこんでいくと魅力の分かるアルバムなのか、

4.10年前から止まっている頭が、聴きながら追いついていくのか、

どれもが正解のような気がします。



1.WHAT MAMA SAID
 のっけから今風のギターで???と思いきやジェニファー・バトゥンのタッピングでした。しばらくして徐々に始まるソロは、まさにジェフベック。しかし、音色はFLASHあたりのヌケの悪い音で、こういう音づくりには合うのかも知れないけど、今一つすっきりしない、どうってことないソロでした。なんかオープニングの曲の割には、イントロでおわったぞ、って感じです。ちょっとカッコいいけど。

2.PSYCHO SAM
 1曲目とおんなじような感じで、続きなのかと思っていましたら違う曲でした。ブレイクの乾いたギターでやっとジェフベック節がちょっと聴けます。1曲目もそうですが、こういう跳ねないリズムは、ベック向きではありません。なんかだらだらと弾くだけで、ベックの持ち味の独特の「間」や「はずし」をやる余地がなく、あえてアルバムの冒頭にいれるような曲ではないと思いますよ。テーマメロディは、それなりに個性的ではありますが、どちらかと言えば枯れ木も山のにぎわい的な曲に聴こえてしまいます。

3.BRUSH WITH THE BLUES
 3連のブルースっぽい曲です。これはライブですね。本来、こういう曲でこそベックのベックらしさが発揮されます。しかし、このテイクがベストだったんでしょうか? 確かに、断片的には、いかにもべックらしい非常にダイナミズムのある表情豊かなソロではありますが、過去の公式ライブなどと比較すると散漫な(ストーリー性が希薄な)ソロで、盛り上がりに欠けます。ブートレグなどを買って、ああこういう演奏もあるのだなと思う程度の内容ではないでしょうか。
ブルースの演奏だったら、ポールロジャースのやつ(マディウォーターズのカバー)に入っているのが、超カッコイイです。

4.BLAST FROM THE EAST
 この曲は結構いい。イントロから素敵です。中近東的で個性的な楽曲、なんかジェフベックの新しいパターンだという気がします。次は、沖縄かな。そういえば「There And Back」での「El Becko」みたいですね。ソロもベックならではのたたみかけるような緊張感があります。ライブだとどんな風にやるのか楽しみです。

5.SPACE FOR THE PAPA
 3.と同様ジェフベックの独壇場といった感じの曲(というか演奏)です。ポジション的には、「There And Back」での「The Pamp」みたいな曲です。こんな単純な曲、普通のギタリストなら間が持ちません。これだけのダイナミズムをもってギターを弾ける人は、ジミヘンなきあとではベック以外にはいないんじゃないでしょうか。奏法的には、トレモロアームで微妙に音程をコントロールしたりGUITAR SHOPの頃以降の奏法が盛りだくさんです。スライドバーを多用していますが、一瞬そう聴こえないところもジェフベックです。終わり頃のハーモニックスを効果的に使ったパッセージは新しいパターンです。ドラムもシンプルですが、堅めのタム?がいいタイミングで入ります。鈴みたいな音も効果的です。でも、何かライブセッションみたいな演奏でした。

6.ANGEL
 この曲もいいですね。私は、このアルバムの中で一番好きです。特筆すべき曲その2です。この曲、メロディーがふわふわしていて、いかにもジェフベックです。ジェフベックらしいメロディは、完璧にまとまっていず、核だけあって周囲が拡散している感じです。後半、よりリアルなギターでメロディを弾き始めるところがいいです。らしい、らしい!と喜んでしまいます。スライドバーで独特のニュアンスを出しています。ただ、これもソロがどうってことないといえば、どうってことない。

 「Guitar Shop」にもこんなレゲェみたいな曲ありました。アルバムの中では、同じポジションです。

7.THX138
 う〜ん、これも長いイントロか間奏みたいなまま終わってしまいました。なんなんでしょうか。ハーモニクスを使ったフレーズが印象的ですが、以前の「フランキーズハウス」のような感じ、サウンドトラックみたいです。サウンドの世界としては、新鮮かもしれませんが、ジェフベックのギターでなけりゃという曲ではないと思います。

8.HIP-NOTICA
 未来的なテイストと70年代風の懐かしさが一緒になったような不思議な曲です。リズムギターの刻みと昔風のドローバーオルガンが実にいい感じ。このリズムギターは、ジェフベック? これもライブがちょっと楽しみな曲です。でもソロは、あったのかなかったのかもよくわからん。

9.EVEN ODDS
 ヤンハマーの曲だと言うから多大な期待をもって望みましたが、見事にはずされました。「エスケイプ」や「スターサイクル」「ユーネバーノウ」「ブルーウインド」みたいな、おっさん得意の超かっこいいリフものだと思っていたのですが、なんかヘビメタってしまって・・・・そりゃ、ソロはそれなりにカッコイイですが、こんな曲をジェフベックが今やって、感動や発見があるでしょうか??? ネタが不足していたんでしょうか。きいている内に、味がでてくるのかなと思ったりもしますが・・・。

 それに「ブルーウインド」の時から思っていますが、ヤンハマーのおっさんがドラムをたたくのは、是非やめて欲しい。せっかくのカッコいい曲が台無しだ。「スターサイクル」だって「ブルーウインド」だって、やっぱり、サイモンフィリップスやボジオが叩いた方が数十倍かっこいいですぜ。なんか、タムのロールなんか、お祭りで売っているでんでん太鼓のおもちゃのようじゃんか。あれだけの人が、どうして自分であんな太鼓をたたいてしまうんだろう??? それにジェフベックも、自分のボーカルのように「それは、やっぱり、専門家にまかそう」と言わないんだろうか。今度、ベスト盤が出るとしたら、是非「スターサイクル」と「ブルーウインド」をちゃんとしたドラムでリテイクして収録して欲しい。お願いします。

10.DECLAN
 雑誌などで絶賛しているのでどんな曲かと思いましたが、NHK新日本紀行って感じですね。尺八のような笛の音色が、のびやかなベックのギターと実に良く合っています。こういう叙情的なギターもいい感じです。美空ひばりがアカペラで歌っているような美しさ。なんかイギリスかスコットランドの片田舎ののどかな田園風景が思い起こされます。

11.ANOTHER PLACE
 エレキギター1本で弾く美しい曲。こんな曲もうまいですね。普通ならこういう曲は、生ギターでしそうですが、そこはジェフベック。ハーモニックスをとてもうまく取り入れてエレキならではの透明感のある演奏です。 

 

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